二人の話3

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二人の話3

 駅までの道を無言で歩いた。気まずくはないけど少し心が重い。どうすれば良かったのかなってずっと考えてる。でも、どうしようもないと結論が出る。それを何回も繰り返した。それくらい先輩の言葉は嬉しかったし自分の気持ちも変えられない。 「困らせてごめん」  と、不意に先輩が言った。見上げると先輩と目が合う。 「心配してくれてありがとう」  そうじゃないんだよ。先輩。その行き違いに凹んでるんじゃない。そう思われたら次が無くなっちゃう。やだよ。ちょっと待って。  そうだった。私、ちゃんと伝えてない。 「私も会いたかった」  これを言ったら困らせると思っていた本音がすんなりと出てきた。 「凄く会いたかったし、今日会えて嬉しかった」  だから先輩。もしも会いたいって思ったらまた声をかけて。分かった? そうしたらいつでも会いに行くから。  そう必死に訴えたのに、目を丸くして少し沈黙した後、先輩は困ったようにこんな事を言う。 「ほんとに…いきなり心臓えぐってくるよね…」  それはそっちも同じだよ。と、心の中で言い返した。 「もしかして俺の事弄んでんの?」  はぁ?  あのねぇ。それもまんま返すわ。全部先輩から始まってるんじゃん。あれ? もしかして気付いてないの? 嘘でしょ? 「俺さ。大人しく帰る気になってるじゃん」  え? 何で私が責められてるの? 納得できないんだけど。 「何でそんなこと言うの? 駄目だった?」  こっちだって必死に言ったのに何よ。じゃあ、もう言わない。泣きそうになってそう言おうとしたら先輩の声が聞こえてきた。 「そうじゃなくて」  その声で気付いた。先輩、本当に疲れ切っているみたい。声がおかしい。大丈夫? 「帰りたくなくなった」  え。 「やっぱり帰らなくていい?」  う…。  駄目だよ。と、言わなきゃいけないと思った。だってどう見ても先輩疲れてるじゃん。ちょっと変だもん。 「側にいて」  でも拒めなかった。  何にもすることがないな。と、ソファに座って膝を抱えていた。思えば今までは色々とする事があって(動揺とか検索とか)忙しかったけど、今日は何もない。テレビ点けたけど頭に入ってこないや。  あっつ…。と、声が聞こえて先輩が戻ってきた。そうなんだよね。機密性が良いからなのか狭いからなのか分からないけど、ホテルのシャワーって暑い。…って、こんなことを知ってしまうってちょっと照れるんだけど。  その先輩が自分を見て笑う。何よ。 「また、小さくなってるね」  ソファの上で体育座りをしていただけで、大きさは変わってないけど? それに標準よりはちょっと大きいと思うけど? そう思いながらもその言葉に納得する。自分だって先輩が、あんなに大きいと思わなかった。抱き締め合わなければきっと気付かないんだろうな。そういう経験をしたから余計にそう思うんだと思う。 「何してたの?」  隣に座って先輩が言う。この人の声って、なんでこんなに落ち着くんだろう。 「何にもしてないよ」 「そう」  そう言って先輩はそっと抱き締めてくれる。体が抵抗もなく従った。でも甘えてるのは先輩。それが分かる。頼ってくれて嬉しい。  本当に疲れ切ってるな。と、先輩の全てから感じた。今日一日何をしてたんだろう。休んでも疲れがとれなかったのかな。ここに来て良かったのかな。自分はこの人の癒しになれるんだろうか。 「今週、全然連絡できなかったけどそっちは変わりなかった?」 「うん」  と、頷く。こんな時でも先輩は、私を心配してくれるんだね。 「寂しかった?」  と先輩が言う。うん。と分かるように頷いた。 「ごめんね」  お互い、思っていることを素直に伝えられる。嘘をついたりからかったり言い訳することもない。どうしようもないことだって思うのに、こんな風になるって難しいことなんだろうな。先輩、ありがとう。 「お土産買ってきてくれたから許して上げる」  忙しい中でも忘れずにいてくれてありがとう。だから大丈夫。そう思いながら先輩の背中をいつかして貰ったようにとんとん叩いた。その自分に、先輩が少し笑ったのが分かった。ぎゅう…っと強く抱き締められる。そのまま首にキスをされて体が震えた。  あ。抱いてくれるんだ。と、思う。大丈夫なのかな。でも求めてくれるなら。と、抵抗する気もない。先輩とそういうことするの、凄く好き。経験して分かった。凄く満たされる。沢山可愛がって貰えるから。 「ありがとう」  と聞こえてきた。何が? と思ったら甘えるように肩に顔を伏せて先輩が呟く。 「本当に、果歩といると安心する」  そうかな。本当にそうなの? 私は梨央ちゃんみたいな癒し系じゃないし、さっきみたいに心臓をえぐるようなことを言っちゃうんだよ? ただ話を聞いて、すぐに家に帰して上げることもできない。それで良いの? 「ベッド行こう」  と、先輩の声が耳元で聞こえた。 「ん…」  それから先輩は、いつもみたいに可愛がってくれた。気持ち良くされて、先輩を覚えている体が素直に反応する。先輩が触っているところが少し音を立てる。音を立てるほど、先輩が上手に可愛がってくれる。 「ん………あ…」  声を出すのも何か言われるのも避けたくて、ずっとキスをしていて欲しかったけれど、先輩が離れて手を放した。そのまま舌で胸を刺激されて体が震える。本当に、恥ずかしい事程気持ちがいい。恥ずかしさよりも気持ち良さが強くなっていることに気付く。こんなに癖になる事だったなんて知らなかった。もっとして欲しい。それが本音。絶対言えないけど。 「ねえ」  でも多分、それに気付いたんだと思う。必死に声を我慢して震える自分に先輩がこんな事を言う。 「ここ、舐めても良い?」  羞恥心と指の感触と言葉全部が恐怖みたいな感覚で伝わってくる。肯定も拒否もせずに「何で…?」と呟いた。 「果歩が気持ち良くなれると思うから」  そうかもしれない。前にして貰った時は余りに強烈で泣いちゃってよく覚えてないけど、先輩がそう言うならそうなんだろうと思う。今の体がどう反応するのか興味が無くもない。でも。 「んん…」  首を横に振った。 「何で?」 「た…大変だから…」  上手く言葉で表現できない。けど、これで伝わって欲しい。もうこれで十分だから、今日は先輩が気持ち良くなってくれたらそれで良いから。無理しないで。 「大変じゃないよ」  でも駄目。首を小さく横に振った。そうじゃなくて、だから、今日は。 「そういう理由なら止めない」  と、先輩が少し低い声で呟く。その声はこうも言った。 「果歩だって俺のこと舐めるじゃん」  ぞく…っと体が震えた。それは、だって、そうした方が良いと思って。気持ち良くなって欲しいし、色んな意味でのお礼にとか、喜んで貰えたら嬉しいとか、そういう…。  …あ、駄目だ。この人全く一緒なんだ。そう気付いて抵抗を止めた。足を広げられて覚悟を決める。目をぎゅっと閉じた。その瞬間に舌が触れる。思っていた以上の感覚に体が痙攣した。 「あ……っ」  指よりも柔らかい感触が、指よりも強烈な刺激をくれる。やっぱり駄目。こんなの。 「ま…待って…っ」 「いきそう?」  その言葉が聞こえて指が入ってくる。もう何も言わせて貰えなかった。
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