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彼は三雲 健太郎。警視庁捜査一課の若手刑事だ。
健太郎は今、同僚の坂上 俊と共に、廃屋で巨大犯罪シンジケートのメンバー相手に銃撃戦を繰り広げていた。
「……!?」
組織のメンバーに背後を取られた健太郎は振り返る。
「三雲!」
健太郎は脳幹に銃撃を受け、即死した。
(う、撃たれた!?)
横たわる健太郎の遺体。
組織のメンバーは、俊が健太郎の遺体に駆け寄る隙をついてその場から逃走した。
「三雲! 三雲! 三雲おおおおお!」
閑静な廃屋に、俊の叫び声だけが響く。
健太郎は救急車で病院に運ばれ、搬送先で死亡が確認された。
その時、健太郎の魂が、肉体から離れた。
(……? 俺、死んじまったのか)
健太郎は行く当てもなく、病院内を彷徨う。
ふと、通りかかった病室の前で立ち止まる健太郎。
プレートに坂上 玲奈と書かれている。
(あの子は……)
健太郎は病室に入ると、ベッドに横たわる意識のない女の子、玲奈に歩み寄る。
「玲奈ちゃんっていうのか」
その時、健太郎の魂と玲奈の体が共鳴を始めた。
「……?」
健太郎の魂が、玲奈の肉体へと吸い込まれる。
「うわあああああ!」
刹那、目を開ける玲奈。
(なんなんだよ、いったい?)
起き上がる玲奈。
そこへ看護師がやってくる。
「玲奈ちゃん、意識が戻ったのね?」
「玲奈……?」
(なるほど。俺はこの子に乗り移ったわけか)
看護師が医師を呼びに急ぐ。
(ということは、玲奈ちゃんは眠ったままなのか)
その数分後、看護師が医師を連れてきた。
「玲奈ちゃん」
と、医師。
「お名前、言えるかな?」
「みく……」
三雲 健太郎、そう言おうとして躊躇する。
(俺の名前を言ったらややこしくなるな)
「坂上 玲奈です」
「記憶は正常だね。お兄さんをお呼びして」
「はい」
看護師が医師の指示で玲奈の兄である俊を呼び出した。
(坂上!?)
俊が現れるや否や、玲奈は驚いた。
「玲奈!」
俊が玲奈を抱きしめる。
(玲奈って、こいつの娘なのか……いや、お兄さんって言ってたから、妹か)
「お兄ちゃん、苦しい」
「ああ、ごめん」
俊が玲奈を解放した。
「玲奈、覚えてること話してくれないか?」
「覚えてること?」
「ああ。お前が俺の追ってた犯人の遺体を発見した時のことだ」
(なんのことだ?)
「なんだっけ?」
「俺の友人を銃殺した男を発見したときのだよ」
玲奈と俊の話を遮るように、医師が口を開いた。
「お兄さん、玲奈ちゃんは意識を取り戻したばかりです。はやる気持ちわかりますが、今は休ませてあげてください」
(そうだぞ、お兄ちゃん)
「そう、ですね……」
玲奈は横たわる。
「とりあえず、玲奈が目を覚ましてくれてよかったよ。お兄ちゃん、仕事あるから、大人しくしてるんだぞ?」
俊はそう言って、病室を出ていく。
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