名探偵爆誕

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 その日の朝、玲奈は目を覚ました。  院内を散策する玲奈。  通りかかった薬剤室の前で、看護師が困っていた。 「看護師さん、どうしたの?」 「うん? ああ、実はストックしてた薬が無くなってるのよ」 「薬が?」 「どこ行っちゃったのかしらね」 「ねえ、その薬、昨日はあったの?」 「昨日は在庫チェックの日で、ノートにチェックがあったわ。そういえば、他のフロアからも薬剤の紛失があったって、会議で話があったわね」 「それって同じ薬なの?」 「ええ。モルヒネっていう、強い痛み止めね」 「昨日の残り数はいくつ?」 「百よ。それが今朝見たら、ゼロになってるじゃない」 (昨日は百あったものが、今日は無くなっている?) 「ねえ、他のフロアのも今日わかったの?」 「いや、別の日よ。どうして?」 「ううん、別に」  玲奈は別のフロアへと移動した。 「ねえねえ、薬剤室で無くなったモルヒネの話聞かせて」  と、ナースステーションで看護師に訊ねる玲奈。 「君、どうしてそれを?」 「さっき、私が入院してる三階の看護師さんが言ってたんだ。暇だからそのモルヒネを探してみようかなって」 「お、探偵後ごっこか。探すのはいいけど、危ない真似はしちゃダメよ?」 「うん」 「で、何が聞きたいの?」 「モルヒネが無くなったのはいつ?」 「一昨日だよ」 (二日前か) 「全部無くなったの?」 「そうね」 「無くなったのって、もしかして他のフロアでもあった?」 「ええ。四日前に五階で無くなったわ」 「ありがとう」  玲奈は五階に移動した。 「ねえ、看護師さん。モルヒネっていつ無くなったの?」 「七日前だけど、どうして?」 (七日前? 二日置きじゃないのか。待てよ? この日数、規則性があるのか?)  聡美は懐から携帯電話を取り出すと、俊の携帯に発信した。 「はい」 「お兄ちゃんに頼みたいことがあるんだけど」 「頼みたいこと?」 「今ね、入院してる病院でモルヒネがなくなる事件があって、それで調べたいことがあるの」 「調べたいこと?」 「うん。病院関係者の出退勤記録なんだけど、流石に私が見れるものかと疑問に思ってね」 「なんだよ、兄ちゃん忙しいんだけどなあ」 「お願い! 力を貸して」 「しょうがないなあ。今、行くから、部屋で待ってなさい。くれぐれも危険なことはするなよ」  電話が切れる。  玲奈は部屋に戻って俊が到着するのを待った。 (おそらく、モルヒネを持ち去ってるのは病院関係者だ。二日前、四日前、七日前。この日数は、関係者の出勤日だろう)  やがて、俊が姿を現す。 「遅い!」 「これでも急いで来たんだぞ。で?」 「この病院の医師や看護師全員の出退勤記録を手に入れてほしいの」 「マジかお前?」 「うん。クレイジーなこと言ってるのは承知の上よ」 「はいはい……」  俊は徐に病室を出ていく。  少し時間が経ち、俊がいくつかのファイルを手に持って戻ってきた。 「おかえり。こんなにあるんだ?」 「何人分のデータが詰まってると思ってるんだよ」  玲奈はファイルを開き、二日前、四日前、七日前の全てに出勤している人物を絞り込む。  該当する人数は四人だった。 (この四人が容疑者か)  上妻(あがつま) 瑛二(えいじ)。  宮島(みやじま) 香奈子(かなこ)。  毒島(ぶすじま) 哲也(てつや)。  野田(のだ) 健一(けんいち)。 「お兄ちゃん、この四人について聞き込みするよ」 「俺、殺人の捜査で忙しいんだけどなあ……」  玲奈と俊が四人の容疑者に関して聞き込みを行った。  上妻は出退勤時にキャリーケースを院内に持ち込んでいる。泊まり用の服が入ってるのではないかという証言を得られた。  宮島は手ぶらで来ている。着替えは帰ってからするのだろう。  毒島はリュックを背負(しょ)って出退勤しているという。  野田は大きめの手提げ(カバン)で来ていた。  玲奈と俊は上妻の元を訪ねた。 「なんだい、君たち?」  俊が警察手帳を取り出す。 「警察? がなんで?」 「上妻さん、キャリーケース、見せてくれない?」 「なんでだよ? なんで僕の服が入ったケースを?」 「入ってるの、服じゃないんでしょ?」 「え?」 「モルヒネ、だったりして?」 「な……、証拠はあるのか?」 「キャリーケースなら百個入りそうだけど」  上妻がキャリーケースを持ってくる。 「ほらよ」  キャリーケースを開ける玲奈だが、しかし、中身は空っぽだった。 「服が入ってたんじゃないの?」 「服は今、着替えたところだよ。もう仕事を終えて帰るところだからね」  玲奈はキャリーケースをくまなく調べた。  しかし、怪しいものなどは見つからない。 「では、その着替える前の服は?」 「え?」 「着替えたのなら、これに入れるはずだよね? だって、持って帰るんだから」 「上妻さん、モルヒネはどこですか?」 「くっ……!」  上妻はその場に崩れた。 「上妻さん、あなたがモルヒネを持ち出してるんですね?」 「ああ。そうだよ。金欠で困っていたところ、金になるからと。くすねて売り捌いてたんだ」 「上妻さん、窃盗の容疑で警視庁へ同行してもらいます」  俊は上妻を警視庁に連行する。  去り際に俊は玲奈にこう言った。 「名推理だったよ」
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