0人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の朝、玲奈は目を覚ました。
院内を散策する玲奈。
通りかかった薬剤室の前で、看護師が困っていた。
「看護師さん、どうしたの?」
「うん? ああ、実はストックしてた薬が無くなってるのよ」
「薬が?」
「どこ行っちゃったのかしらね」
「ねえ、その薬、昨日はあったの?」
「昨日は在庫チェックの日で、ノートにチェックがあったわ。そういえば、他のフロアからも薬剤の紛失があったって、会議で話があったわね」
「それって同じ薬なの?」
「ええ。モルヒネっていう、強い痛み止めね」
「昨日の残り数はいくつ?」
「百よ。それが今朝見たら、ゼロになってるじゃない」
(昨日は百あったものが、今日は無くなっている?)
「ねえ、他のフロアのも今日わかったの?」
「いや、別の日よ。どうして?」
「ううん、別に」
玲奈は別のフロアへと移動した。
「ねえねえ、薬剤室で無くなったモルヒネの話聞かせて」
と、ナースステーションで看護師に訊ねる玲奈。
「君、どうしてそれを?」
「さっき、私が入院してる三階の看護師さんが言ってたんだ。暇だからそのモルヒネを探してみようかなって」
「お、探偵後ごっこか。探すのはいいけど、危ない真似はしちゃダメよ?」
「うん」
「で、何が聞きたいの?」
「モルヒネが無くなったのはいつ?」
「一昨日だよ」
(二日前か)
「全部無くなったの?」
「そうね」
「無くなったのって、もしかして他のフロアでもあった?」
「ええ。四日前に五階で無くなったわ」
「ありがとう」
玲奈は五階に移動した。
「ねえ、看護師さん。モルヒネっていつ無くなったの?」
「七日前だけど、どうして?」
(七日前? 二日置きじゃないのか。待てよ? この日数、規則性があるのか?)
聡美は懐から携帯電話を取り出すと、俊の携帯に発信した。
「はい」
「お兄ちゃんに頼みたいことがあるんだけど」
「頼みたいこと?」
「今ね、入院してる病院でモルヒネがなくなる事件があって、それで調べたいことがあるの」
「調べたいこと?」
「うん。病院関係者の出退勤記録なんだけど、流石に私が見れるものかと疑問に思ってね」
「なんだよ、兄ちゃん忙しいんだけどなあ」
「お願い! 力を貸して」
「しょうがないなあ。今、行くから、部屋で待ってなさい。くれぐれも危険なことはするなよ」
電話が切れる。
玲奈は部屋に戻って俊が到着するのを待った。
(おそらく、モルヒネを持ち去ってるのは病院関係者だ。二日前、四日前、七日前。この日数は、関係者の出勤日だろう)
やがて、俊が姿を現す。
「遅い!」
「これでも急いで来たんだぞ。で?」
「この病院の医師や看護師全員の出退勤記録を手に入れてほしいの」
「マジかお前?」
「うん。クレイジーなこと言ってるのは承知の上よ」
「はいはい……」
俊は徐に病室を出ていく。
少し時間が経ち、俊がいくつかのファイルを手に持って戻ってきた。
「おかえり。こんなにあるんだ?」
「何人分のデータが詰まってると思ってるんだよ」
玲奈はファイルを開き、二日前、四日前、七日前の全てに出勤している人物を絞り込む。
該当する人数は四人だった。
(この四人が容疑者か)
上妻 瑛二。
宮島 香奈子。
毒島 哲也。
野田 健一。
「お兄ちゃん、この四人について聞き込みするよ」
「俺、殺人の捜査で忙しいんだけどなあ……」
玲奈と俊が四人の容疑者に関して聞き込みを行った。
上妻は出退勤時にキャリーケースを院内に持ち込んでいる。泊まり用の服が入ってるのではないかという証言を得られた。
宮島は手ぶらで来ている。着替えは帰ってからするのだろう。
毒島はリュックを背負って出退勤しているという。
野田は大きめの手提げ鞄で来ていた。
玲奈と俊は上妻の元を訪ねた。
「なんだい、君たち?」
俊が警察手帳を取り出す。
「警察? がなんで?」
「上妻さん、キャリーケース、見せてくれない?」
「なんでだよ? なんで僕の服が入ったケースを?」
「入ってるの、服じゃないんでしょ?」
「え?」
「モルヒネ、だったりして?」
「な……、証拠はあるのか?」
「キャリーケースなら百個入りそうだけど」
上妻がキャリーケースを持ってくる。
「ほらよ」
キャリーケースを開ける玲奈だが、しかし、中身は空っぽだった。
「服が入ってたんじゃないの?」
「服は今、着替えたところだよ。もう仕事を終えて帰るところだからね」
玲奈はキャリーケースをくまなく調べた。
しかし、怪しいものなどは見つからない。
「では、その着替える前の服は?」
「え?」
「着替えたのなら、これに入れるはずだよね? だって、持って帰るんだから」
「上妻さん、モルヒネはどこですか?」
「くっ……!」
上妻はその場に崩れた。
「上妻さん、あなたがモルヒネを持ち出してるんですね?」
「ああ。そうだよ。金欠で困っていたところ、金になるからと。くすねて売り捌いてたんだ」
「上妻さん、窃盗の容疑で警視庁へ同行してもらいます」
俊は上妻を警視庁に連行する。
去り際に俊は玲奈にこう言った。
「名推理だったよ」
最初のコメントを投稿しよう!