第1話 もしかして、この世界は……?

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第1話 もしかして、この世界は……?

 私は商事会社に勤めるOL(26歳)。 営業職に身を置き、男性社員たちに混ざって働く、いわゆる「バリキャリ」と呼ばれる存在だった。 営業成績を上げる為、血のにじむような努力を怠らなかった。その甲斐あってか、常に売上は若手社員の中でトップをキープ。 『チーフ』となり、何人かの部下を持つようにまでなったのに……ある日、悲劇が私を襲った―― この日、私は中途入社の男性社員を連れて自分の得意先を回っていた。 「ほら、渡辺くん! 早く次の得意先行くわよ!」 大通りの交差点を歩きながら彼に声をかけた。 「チーフ! ちょ、ちょっと待ってください! 早いですよ……」 私の後を追うように、彼が追いかけてきている。 「そんなやわなこと言ってられないわよ? これからあと3件回るんだから」 振り向いた途端、彼が真っ青な顔をして私に叫んだ。 「チーフッ!! 危ない!」 「え?」 振り向いたときには、もう眼前に車がこっちに向かって突っ込んできていた。 マズイ! ぶつかる――! ドンッ!! 激しい衝撃を受け、宙を舞い……気づけば地面に倒れていた。 「チーフッ!! しっかりして下さい!!」 渡辺君がこちらに駆け寄ってくる姿が見える。声を出そうにも何も出てこないし、指1本動かせない。 瞼が重たくなってきた……。 「チーフッ! 目を開けて下さい……目を…………」 彼の喚く大きな声がどんどん小さくなっていく。私のことより……早く、得意先に行きなさい……よ……。 そして、何も聞こえなくなった―― **** 「……い……いい加減目を覚ませ……」 う〜ん……渡辺くんだろうか……? それにしても失礼な物言いだ。仮にも私は上司だと言うのに。 「おい! 目を覚ませって言ってるだろう!!」 次の瞬間、思いきり怒鳴られた。な、なんて態度の悪い部下なのだろう! 私の意識が一気に覚醒する。 「うるさーい!! 上司の私になんて口の聞き方するのよ!!」 ガバッと飛び起き……眼前に見たこともない中年男の顔があった。無精髭に落ちくぼんだ瞳。ボサボサの前髪にやさぐれた目つき。 「ええっ!? だ、誰よ!」 思わず後退り、壁に背中を打ち付けた。 「はぁ? 父親に向かってなんて口の聞き方するんだよ? ガキが!」 父親? 私の父親はこの男よりもずっと年だし、何より髪の毛はスカスカだ。それに誰がガキだって? 「何言ってるんですか? 誰が父親ですって? 頭おかしいんじゃないですか? 大体誰がガキなのよ」 「お前、さっきから何言ってるんだ? 父親に向かって生意気な口たたくんじゃねぇ!」 「誰が生意気ですって……」 私は改めて男をじっくり見た。痩せぎすの男はボサボサ髪に無精髭を整えれば中々のイケメンになるかもしれない。何より外国人のように堀の深い顔に栗毛色の髪……。え? 「何? 外国人……?」 よく見ると、目の前の男は日本人には見えない。どう見ても外国人だ。おまけに白いシャツにボロボロのジャケットに、ところどころほつれたズボン……それに……。 「さっむ! な、何よ……さ、寒い……!」 おかしい、何でこんなに寒いのだろう? 確か今は秋だったはず。思わず、自分の腕を抱え込んだとき、気づいた。 「何、これ……何でこんなみすぼらしい格好しているのよ?」 私が今来ているのはゴワゴワした布地のブラウスに茶色のこれまたゴワゴワした手触りのスカートだった。挙げ句に素足ときている。 おまけに自分がいる場所はまるで小屋のような粗末な家の中だったのだ。 「寒い……寒すぎる!」 歯をガチガチ鳴らしながら腕を抱えていると、それまで気味の悪いものでも見るかのように私を見下ろしていた男が口を開いた。 「ああ、そうだ! お前がマッチを売ってこないから、薪だって買えないんだよ! とっとと町へ言ってマッチを売ってこい! アンナ!!」 「ア、アンナ? 誰がアンナですって! 私の名前は、紬よ! つ・む・ぎ!! それに何よ、マッチを売ってこいって! 訳のわからないこと言わないでよ」 訳のわからないことばかり言われて、ついにキレてしまった。 「馬鹿なことばかり言ってるんじゃねぇ! お前がマッチ売ってこなけりゃ、暮らせないんだよ! さっさと行きやがれ!」 男は無理やり私の腕を掴むと、恐らくベッド? から引きずり降ろした。 「痛いじゃない! 何する……え……?」 その時、私の髪の毛がパサリと腕にかかった。髪色は男と同じ栗毛色だった。 「嘘……」 私の髪は黒、それに肩にかかる程度の長さだ。それなのに、今の私の髪は腰に届くほどの長さになっている。 ど、どういうこと!? 「か、鏡……」 「あん? 何だ? 鏡なら、あそこにあるだろう?」 板張りの壁に、鏡が掛けてあるのが見えた。急いで鏡に駆け寄り、覗き込んだ。 「う、嘘でしょう……?」 鏡の中には青い瞳に栗毛色の……まだ幼さの残る少女が映り込んでいるではないか。 「そ、そんな……一体どういうことなのよ……」 鏡に映る少女は私と同様に口を動かす。間違いない、鏡に映る少女は紛れもない私だ。どう見ても15〜6歳程度にしか見えない。 すると、そのとき―― 「どうだ? 鏡を見れて満足したか? 見たならさっさとマッチを売ってこい! 金がなければ年を越せないんだよ!! 早くあのテーブルの上にあるマッチを売ってこい!」 父親らしき男が指さした先には粗末なテーブルがあり、大量の小箱が乗せられている。 まさか……あれがマッチだろうか? 「なにボサッとしてるんだよ! 早くマッチを売ってこい!!」 頭の上からマッチを売ってこいと怒鳴る男。 そして年を越せないという話から、今はおそらく12月31日だということが推測される。 マッチ……それに大晦日……。 ここまで条件が揃えば、さすがの私も気づいてしまった。 どうやらここは『マッチ売りの少女』の世界で、私は救いようのない主人公になってしまったということに――
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