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モデルに
ふだんの私服と言われても困る。
そう、ミモザはため息をついた。
まだよく飲みこめていない話ではあるが、自分の「人形」ができるとするなら、服装も──そのままではないにせよ、印象に一役買うのだろう。
ふとミモザは、自分をどう見せたいのかと思い当たった。
考えてみると、自分はそういうことをあまり考えてこなかったのだと気づく。実は私服は多くはない。それもあまり冒険したようなものはない。これまでの勤め先はスーツスタイルがふつうだったので、さほど気を使わなかったのだ。働く女性の定番のスタイルが板についてさえいれば満足していた。
ふっと心の奥に、何か光った。本当に、小さな宝石のかけらのように一瞬間。
そうか。
今の自分は、自分を表現することを目指しているのだ。
会社組織の中に居場所をつくるために、人並よりも少しだけ一生懸命に仕事をして「役に立つ」人間として認められる。ミモザの勤めの頃のスタイルだ。出世や稼ぎにさほど執着があったわけではない。だが、会社の「色」に合わせてそれなりに努力し、「成果」をあげ、周りから一定程度の評価をうることを目的としていた。
「評価」って何?
あの会社の中での評価でしかない。仕事そのものへのプライドや充足感はほぼなかった。
考えてみれば、そういう日々がだんだんと色褪めて感じられてきて、気が付いたら辞めることばかり頭を過ぎるようになっていた。
今回フリーランス、個人事業主としてビジネスをしようとは思い立ったものの、そこで実現したい青写真がはっきりとあるわけではまだなかった。
これまでの不動産の知識を生かして、何かやれないか、あるいは、まだ三十二歳という年齢、あらたなことに挑戦するか。
明確な像がないからこそ、あの交流会に臨んだのだった。
初っ端で変わった人と出くわした。
そう、あのときに異業種交流会に来ていた人たちの中で、あのメイドラーメンの若い子に次ぐくらい変わった人材だった。あれから三日たった今振り返っても、彼ほど印象に残っている起業家はいない。
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