出会い

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出会い

 ミモザにとって初めての異業種交流会だった。いや、正確には二回目だが、初回は選択が悪かったのか、まるで出会い系のようでこりごりの思いを味わった。そういう経験のある場にまた行こうと思い立ったのは、ミモザが五年務めた仕事を退職し、フリーランスとして独立することを決意したからだった。  思いだけは強くあるが、起業するということについて右も左も分からないような状況の中、先輩にあたる人たちの話を機を見つけては訊き出したいと心が逸っていたのだ。  フリーランス向けの異業種交流会ということ以外に何の予備知識もなくミモザは西新宿のオフィスビルの会議室を貸し切って行われる会場へと足を運んだ。会社員時代に着用していたグレーのパンツスーツに髪を後ろで一つ結びにして、会社を辞めて以来のハイヒールのエナメルの靴に早くも脚の苦痛を覚えながら向かっていた。片腕には、これも会社員時代のA4サイズの入る大きめのビジネスバッグをかけていた。  四谷で働き、荻窪に住む彼女には、新宿はたまに降りる機会もあったので、土地勘はある。  平日の今日も昼中にもかかわらず営業や出張で駅に向かうビジネスパーソンたちが、春先のコートやジャケツの下にネイビーやグレーのスーツで武装しつつ闊歩していた。  もう、この世界からは足を洗ったはずなのに、それでも今日はまた似たようなスタイルで道を歩く。軽い圧迫感に呼吸が細くなる。
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