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ズボンのポケットの中に手をやると、壊れたヘアピンを出した。割れたカンガルーの飾りを手のひらに握りしめる。
勇気を出すお守りとして、これを持っていた。けれどももうカンガルーのヘアピンが無くても、大丈夫だ。
ありがとう……。
穂乃花は胸の中で、手の中の小さなカンガルーにつぶやいた。ありがとう、それからさよなら。わたしはもう大丈夫だよ。
これからの日本の生活に踏み出すのも、もう怖くなかった。
東京の一月の夕暮れの風は冷たい。それでも、温かいスープを食べたように、ジャケットの内にある胸の中にはほんわかとぬくもりがあった。
空に浮かぶのは赤いきれいな夕焼け雲だ。この空はオーストラリアに繋がっている。日本と別の国を高い空が繋いでいる。きっと遠い未来にも。
わたし、ポケットの外でもやってゆけそう──。
風に髪をなびかせ、夕暮れの空を見上げながら穂乃花は微笑んでいた。胸の中のどきどきする気持ちを大切に思いながら。
(完)
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