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拒絶
「なんで…」
涙が溢れ落ちた
もう何を信じたらいいのかわからない
コイツならもしかしたらって…
「……憐れなSubだと思ってたのか…?
可哀想だから、優しくしてたのか…?
バカなやつだって思ったよな?
……そりゃ、さぞかし簡単だったろ?滑稽だったろ?
…本気で、お前に『愛して欲しい』って、思ってたのに……」
不意に、セーフワードであるあの言葉を口にしたことにより、身体が自由に動き、颯斗の腕を振り払う
「晴臣さん…」
「呼ぶな!」
「晴臣さん、聞いてください」
話し言葉すら命令になる
強いDomなら尚更…
「『愛して欲しい』」
咄嗟にセーフワードを叫んでコマンドを破棄する
「お願い、晴臣さん。話しを聞いてください」
「『愛して欲しい』」
コマンドを破棄したい気持ちと本音が重なり、口にする度に胸が痛む
「晴臣さん、 Listen」
向かい合わせで両肩を掴まれて身動きが取れない
「『愛して欲しい』!」
さっきまでの話し言葉ではなく、ちゃんとしたコマンドに抗うようにセーフワードを叫ぶ
「触んなっ!お前に『愛して欲しい』って!『愛してる』って言いたかった!
セーフワードなんかじゃなくて!本気で…本心から…」
膝から崩れ落ちるように座り込み、唇を噛み締めて泣き声を殺す
ベッドからいつの間に降りて、床に膝をついて視線を合わせるようにしてくれ
「 Relux晴臣さん…黙っててごめんなさい」
両頬を手で包まれ、額を合わせるようにくっ付かれる
颯斗の暖かい手が、冷え切ったオレの頬に温もりをくれる
「 Settle down…晴臣さん、愛しています。本当に、貴方を愛しているんです」
早く、この手を振り解かなきゃいけないのに
この暖かい手から、逃げなきゃいけないのに
この温もりから離れられない
「 Kiss、晴臣さん。俺のこと、好きになってくれたなら、 Kissしてくれませんか?」
ズルい…
命令で言われたら拒絶できないのをわかっているくせに
セーフワードを言えば拒絶できるけど、これ以上言いたくないのもわかってるくせに
「…お前、ズルすぎなんだよ…」
最初は触れるだけのようなキスをする
颯斗からは何も返ってこない、触れるだけのキス
「颯斗のこと『愛してる』。『愛して、る』。『愛して…』ごめん…」
目を臥せると同時に涙が流れ落ちる
離れたくない
もう、戻りたくない
颯斗の側に居たい
オレなんかが颯斗のパートナーになるなんて、相応しくないのはわかってる
パートナーじゃなくてもいい
今までみたいに、時々でいいからPlayをして貰えて…
嘘でもいいから、今みたいに好きだって…愛してるって、言って欲しい…
愛されなくてもいいから、側に居て欲しい…
「晴臣さん、愛してます。まだ信じて貰えないかもしれないけど…
本当に、俺は貴方のことを愛しているんです」
腕を引かれ、そのまま颯斗の胸に飛び込むように倒れ込んでしまう
強く抱き締めてくる腕から逃げることも、拒絶することも出来ない
ただ、颯斗と触れ合っている部分が熱くて、安心してしまう
「…オレが、汚いってわかったのに…?
誰かれ、知らないヤツにも抱かれて…、仕事も、家も、何も持ってない…
身体を売るしか、利用価値もな…」
「晴臣さんは綺麗ですよ。
強がって悪ぶるのに、本当は優しくて可愛い。甘いモノに目がないし、食べてる時の顔、すっごく可愛いんですよ。
煙草、ホントは苦手なのに吸ってたでしょ?
貴方のことを知るたびに、好きだと思う気持ちが増すんです」
耳元で優しく囁いてくる声が気持ちいい
抱き締められているせいで、大好きな颯斗の匂いを強く感じて安心してしまう
ドキドキと、さっきから煩いくらいに聴こえる心音は、オレのだけじゃなくて…
「晴臣さん、俺のパートナーになって下さい。
第二の性でのパートナーもそうだけど、晴臣さんの恋人になりたい。ずっと、晴臣さんを愛して、大切にしたい。
晴臣さん、俺を選んでください。」
顔を上げると真剣な眼差しで告白してくる颯斗から目が離せない
チョコレートブラウンの瞳が、オレだけを映してくれる
「……捨てる時は、殺して。もう2度と、捨てられるのは嫌だ…」
願うように、涙と一緒にポツリと小さな声でそれだけ伝える
颯斗には、ちゃんと聞こえていたのか、いつもの優しい笑みを浮かべ
「捨てませんよ。晴臣さんが逃げたくなっても、2度と逃がしませんから。
俺の、俺だけの愛しいSub…やっと、手に入れたんだ」
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