拒絶

1/1
前へ
/34ページ
次へ

拒絶

「なんで…」 涙が溢れ落ちた もう何を信じたらいいのかわからない コイツならもしかしたらって… 「……憐れなSubだと思ってたのか…? 可哀想だから、優しくしてたのか…? バカなやつだって思ったよな? ……そりゃ、さぞかし簡単だったろ?滑稽だったろ? …本気で、お前に『愛して欲しい』って、思ってたのに……」 不意に、セーフワードであるあの言葉を口にしたことにより、身体が自由に動き、颯斗(ハヤト)の腕を振り払う 「晴臣さん…」 「呼ぶな!」 「晴臣さん、聞いてください」 話し言葉すら命令(コマンド)になる 強いDomなら尚更… 「『愛して欲しい』」 咄嗟にセーフワードを叫んでコマンドを破棄する 「お願い、晴臣さん。話しを聞いてください」 「『愛して欲しい』」 コマンド(命令)を破棄したい気持ちと本音が重なり、口にする度に胸が痛む 「晴臣さん、 Listen(聞いてください)」 向かい合わせで両肩を掴まれて身動きが取れない 「『愛して欲しい』!」 さっきまでの話し言葉ではなく、ちゃんとしたコマンド(命令)に抗うようにセーフワードを叫ぶ 「触んなっ!お前に『愛して欲しい』って!『愛してる』って言いたかった! セーフワードなんかじゃなくて!本気で…本心から…」 膝から崩れ落ちるように座り込み、唇を噛み締めて泣き声を殺す ベッドからいつの間に降りて、床に膝をついて視線を合わせるようにしてくれ 「 Relux(落ち着いて)晴臣さん…黙っててごめんなさい」 両頬を手で包まれ、額を合わせるようにくっ付かれる 颯斗(ハヤト)の暖かい手が、冷え切ったオレの頬に温もりをくれる 「 Settle down(落ち着いて)…晴臣さん、愛しています。本当に、貴方を愛しているんです」 早く、この手を振り解かなきゃいけないのに この暖かい手から、逃げなきゃいけないのに この温もりから離れられない 「 Kiss(キスして)、晴臣さん。俺のこと、好きになってくれたなら、 Kiss(キス)してくれませんか?」 ズルい… 命令(コマンド)で言われたら拒絶できないのをわかっているくせに セーフワードを言えば拒絶できるけど、これ以上言いたくないのもわかってるくせに 「…お前、ズルすぎなんだよ…」 最初は触れるだけのようなキスをする 颯斗(ハヤト)からは何も返ってこない、触れるだけのキス 「颯斗(ハヤト)のこと『愛してる』。『愛して、る』。『愛して…』ごめん…」 目を臥せると同時に涙が流れ落ちる 離れたくない もう、戻りたくない 颯斗(ハヤト)の側に居たい オレなんかが颯斗(ハヤト)のパートナーになるなんて、相応しくないのはわかってる パートナーじゃなくてもいい 今までみたいに、時々でいいからPlayをして貰えて… 嘘でもいいから、今みたいに好きだって…愛してるって、言って欲しい… 愛されなくてもいいから、側に居て欲しい… 「晴臣さん、愛してます。まだ信じて貰えないかもしれないけど… 本当に、俺は貴方のことを愛しているんです」 腕を引かれ、そのまま颯斗(ハヤト)の胸に飛び込むように倒れ込んでしまう 強く抱き締めてくる腕から逃げることも、拒絶することも出来ない ただ、颯斗(ハヤト)と触れ合っている部分が熱くて、安心してしまう 「…オレが、汚いってわかったのに…? 誰かれ、知らないヤツにも抱かれて…、仕事も、家も、何も持ってない… 身体を売るしか、利用価値もな…」 「晴臣さんは綺麗ですよ。 強がって悪ぶるのに、本当は優しくて可愛い。甘いモノに目がないし、食べてる時の顔、すっごく可愛いんですよ。 煙草、ホントは苦手なのに吸ってたでしょ? 貴方のことを知るたびに、好きだと思う気持ちが増すんです」 耳元で優しく囁いてくる声が気持ちいい 抱き締められているせいで、大好きな颯斗(ハヤト)の匂いを強く感じて安心してしまう ドキドキと、さっきから煩いくらいに聴こえる心音は、オレのだけじゃなくて… 「晴臣さん、俺のパートナーになって下さい。 第二の性(ダイナミクス)でのパートナーもそうだけど、晴臣さんの恋人になりたい。ずっと、晴臣さんを愛して、大切にしたい。 晴臣さん、俺を選んでください。」 顔を上げると真剣な眼差しで告白してくる颯斗(ハヤト)から目が離せない チョコレートブラウンの瞳が、オレだけを映してくれる 「……捨てる時は、殺して。もう2度と、捨てられるのは嫌だ…」 願うように、涙と一緒にポツリと小さな声でそれだけ伝える 颯斗(ハヤト)には、ちゃんと聞こえていたのか、いつもの優しい笑みを浮かべ 「捨てませんよ。晴臣さんが逃げたくなっても、2度と逃がしませんから。 俺の、俺だけの愛しいSub…やっと、手に入れたんだ」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加