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P.マダーマム流「純潔教育」
あぁ、愛すべき聖女さま!
目の前で行われている講義が非常に退屈で甘美のかけらもない時、あなたならばこの無意な時間をどう過ごされるでしょうか。
私はといえば、義父の目を盗んでアンティーク調のイスと手足を結ぶ鎖をこっそり外してからというものの。養子入りから12年をともにしたメイドがこぼす演技めいた喘ぎ声に加え、普段はクールな3番目の叔父の呼吸音をシャットアウトするのに必死で、あなたの麗しいお顔を思い出す余裕もありません。
「フルーラ! この不真面目娘、聞いていますか? せっかく貴女の叔父とメイド長が講師になってくださっているというのに、その無関心な態度はなんでしょう?」
目前のベッドで絡み合う銀髪の紳士に赤髪のメイド――モア叔父さまとマチルダから視線を逸らし、「ちゃんと聞いているわ、お義父さま」と生あくび混じりに義父を振り返れば。即席の食卓につく義父は、白い塊を貫いたフォークの先端をこちらへ差しだしました。あの小さな丸い夜食はおそらく義父最愛の食材、蚕の繭に違いありません。
「そのだらしないクマ、また懲りずに図書室で徹夜したのですか? 勉強熱心なのは関心ですが、徹夜は連続3日までにしなさいと言っているでしょう」
実は連続4日目だなんて正直に申告するつもりはありませんが、思わず義父の金縁眼鏡の奥から視線を外してしまいました。すると「しめた」、とばかりに青白い唇から放たれるお説教が加速していきます。
「フルーラ、これはショーではなく貴女の身を守るための技術を学ぶ場なのですよ。マダーマム家次期当主として最も重要な教養のひとつだと、貴女自身もお判りでしょうに」
次期当主に必要な教養――帝王学などありきたりなものに加え、『囚人を極楽へ導く処刑術』、『尋問対象を死に至らしめない拷問術』といったところでしょうか。家業柄、ごく一般の貴族家で行われる教育に加えて、こういった術がまったく必要ないとは言いませんが。
「ですからお義父さま、私にはこんな講義必要ないと申し上げているでしょう」
どうせ殿方を相手にすることはないのだから、と胸の内だけで続けると。読唇術に加えて読心術も修めているのでは、と日頃から疑わしい義父が「これは必須教養です」と黒い笑みを浮かべました。
「『天文塔八大貴族』のうち最も重厚な歴史と伝統を誇るマダーマム家の次期当主がこんなことでは、私も安心して隠居できません。モア、マチルダ! 貴方たちも。いつになったら『手技』の手本を見せる準備が終わるのですか? もう四半刻も退屈な前戯ばかり行っていますが」
怒りの矛先がベッドへ向いたところで、モア叔父さまがマチルダの筋肉質な双丘から顔を上げました。社交界で無駄にもてはやされるそのお顔には、「無」が張りついています。
「ショーだって勘違いしてるのはリアンの方じゃない……だって全然濡れないし、このメイド」
「やる気がなくなってきた」と表情ひとつ変えずに言い放つ叔父さまに対し、「女性とあらば誰にでも反応するお方に言われたくありません」、と同じく「無」の表情を保ったマチルダも起き上がります。
「そもそも4番目のお方が相手では、こちらもやる気が出ないのですが」
文句をこぼすマチルダには激しく同意しますが、叔父さまも負けていません。「僕、アンタの主なんだけど」と主従関係を持ち出し反論していらっしゃいます。
「恐れながら、4番目のお方は当家の偉大なる家業を放って独立なさっています。私がお仕えするのは当主リアンさま、次期当主フルーラさま。マダーマム家にて家業に励まれる方々に限りますゆえ」
「四男だから4番目って……その短絡的な呼び方、いい加減やめてくれない?」
同族嫌悪というものでしょうか。歳も近く、落ち着いた雰囲気の両者は、睦み合いから睨み合いに移行しました。ここから殴り合いに発展しては、私どころか義父でさえ仲裁できるか分かりません――実際にそうなったとしたら、むしろ講義が中断になって好都合、とあくびを噛み殺していると。
「まったく埒が明きません。フルーラさま、こちらへ」
モア叔父さまから視線を打ち切ったマチルダが、浅いため息とともにガーターベルトを外しました。
「大変おこがましいことを承知で申し上げますが……どうか『お手伝い』をしてくださいませんか? フルーラさまのお慈悲をいただけるのならば私、どんな野蛮人でも相手にしてみせます」
マチルダの凪いでいた瞳に熱が宿った瞬間。胸の中心に疼くような衝動が走り、閉じかけていた目が冴えてしまいました。
「マチルダ……私のアレの方が良いの?」
「ええ、フルーラさまが良いのです」
義父にバレないよう外していた鎖を床に落とし、こちらをじっと見上げている赤褐の瞳に近づいたところ。横から小さな舌打ちが聞こえてきました。
「もうリアンがやってくれない? それか2番目の兄貴を呼べば」
「モア叔父さま落ち着いて」
ベッドから降りようとする叔父さまの腕を捕まえ、「お義父さまが成人女性を相手にできるわけないでしょう?」と囁くと。滅多に見ないほど不機嫌だった叔父さまは、「それもそうだね」とかすかに笑ってくださいました。
「貴方たち聞こえていますからね! はぁ……フルーラ、マチルダを手伝いなさい」
「ええお義父さま。言われなくても」
こんなことをするよりも、処刑術を磨く方がよっぽど有意義だとは思いますが。義父の言う通り、叔父さまとマチルダが私のために時間を割いてくださっていることは事実――期待を込めた目で天井を仰いでいるマチルダの引き締まった胴体に乗り、肩にかかる自身の髪をひと房、マチルダの鼻先へと押しつけました。
「いい? 食べちゃダメ。その代わり少しだけ舐めてもいいわ」
そう囁くと、息を荒くしていたマチルダは「本当によろしいのですか?」と生唾を飲み込みます。
普段はこのような飴を与えないので、警戒しているのでしょうか。それでも「いいわ」と頷くと、マチルダの力強い腕に肩を引き寄せられました。
頬をくすぐるマチルダのツインテールを軽く引っ張ると。ゴーサインに興奮した彼女は、至福の笑みで髪の束に舌を滑らせます。
「はぁ……フルーラさまのお髪」
食毛家のマチルダがいつも話すように、髪から人それぞれの味がするのかどうかは長年の疑問ですが。
「ん……カラスの濡れ羽色、艶やかで美味しいです」
唾液を含ませた髪を吸いながら、マチルダは自身の手で「手技」の準備をはじめました。
ただ見ているだけも暇ですから、目の前で揺れる豊満な乳房の先端を吸ってお手伝いしていると。彼女の太ももの間から響く水音が、緩やかに部屋を満たしていきます。
「アレで興奮できるとか……」と明らかに引き気味のモア叔父さまの声を聞き流す間にも、マチルダは私の上から離れていきました。そのまま暴漢へ体当たりをする勢いで叔父さまを押し倒し、まだやる気を保っていた叔父さまの昂りを強く握ります。
「いっ、ちょっと力強すぎ」
「よくご覧になってフルーラさま」
あまり凝視するのもためらわれる場所ですが――促されるまま、甘く酸い匂いを放つ場所へ視線を遣ると。彼女は肉の割れ目から滴る粘液に、叔父さまの肉塊を擦り付けています。
「……これ、入ってしまわないの?」
「大丈夫です、ほら」
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