5. コルネリア

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5. コルネリア

 癖のない真っ直ぐな黒髪、賢さと色気を感じる紫色の瞳、気品ある佇まい。  僕がうっかり妄想してしまった女性版アルマンドそのままの姿をしている。 (……いや落ち着け、そういえばアルマンドには妹がいると聞いた気がする。きっと彼女がそうだ)  一瞬、アルマンドが女装してきたのかと思ったが、アルマンドがそんなことをするわけがないし、あまりジロジロ見ると失礼だが、コルネリアにはちゃんと女性の胸がついている。 (……それにしても、なんて美しい)  理想のタイプのイメージが女性版アルマンドだった僕にとって、コルネリアの外見はまさに完璧だ。  つい言葉を失って見惚れていると、コルネリアがやや戸惑った様子で声を掛けてきた。 「あの、ジェラルド様」 「あっ、すまない! あまりに綺麗だったからビックリして……」  うっかり本音を口に出してしまうと、コルネリアのふっくらとした唇から「えっ」と小さな声が漏れ、驚いたように瞬いて長い睫毛が揺れる。  その姿が恐ろしいほど可憐で色香があって、僕は思わず心臓を押さえた。 (ダメだ……可愛すぎて死ぬ……)  神よ、奇跡の出会いをありがとうございますと、天に感謝を捧げていると、後ろから苛立たしげな声が聞こえてきた。 「それがジェラルドの婚約者なのね? どんな女かと思ってたら、背が高いだけの地味な女じゃない!」  はぁ? お前の目は節穴か?  と言い返したいところをグッと堪え、僕はにこやかな笑みを浮かべて返事する。 「皇女殿下、この方が僕の大切な婚約者のコルネリア・レンツィ嬢です」 「レンツィ子爵家の娘、コルネリアと申します。皇女殿下にお会いできて大変光栄に存じます」  コルネリアが礼儀正しく淑女の礼をとる。  優雅で洗練された所作が美しい。  いつまでも眺めていたい気持ちになるが、まずは皇女との件を片付けることが優先だ。  しかし、僕がコルネリアをエスコートしようとしたところで、皇女がハッと嘲るような笑いを漏らした。 「子爵家! 子爵家ですって? 侯爵家嫡男であるジェラルドと結婚するなら、せめて伯爵以上じゃなくては認める気にもならないわ! ジェラルド、やっぱりこんな女じゃなくて、わたくしと結婚すべきよ。そのほうが貴方のためになるに決まってる!」  皇女がソファでふんぞりかえりながら、勝ち誇ったような表情を浮かべる。  その姿が見るに耐えないほど醜く、コルネリアへの暴言も許せなくて、僕は初めて皇女に声を荒らげ──……ようとしたのだが、コルネリアがそれを制し、コツコツと靴音を立てながら落ち着き払った様子で皇女に近づいた。 「皇女殿下は私の存在だけではジェラルド様との婚約を諦めてはくださらないようですね」 「もちろんよ。貴女ごときがいたところで、何の障害にもならないわ!」 「左様でございますか。では、こちらならいかがですか?」  コルネリアがクラッチバッグから書類を取り出してベアトリーチェ皇女の前で広げてみせる。  その書類を見た途端、皇女の顔色が真っ青に変わった。 「こ、これ……どうして貴女が知ってるの……!?」 「ふふ、少し調べさせていただきました」  コルネリアが上品に、しかしどこか妖しく微笑む。 「──皇女殿下はジェラルド様がお好きなのではなく、ご自分の不始末を隠すために、ジェラルド様を利用なさりたかったのですよね?」 「…………」  さっきまで威勢の良かった皇女が、今は急に黙り込んだまま所在なさげに俯く。  一体、コルネリアが見せた書類には何が書かれていたのだろうかと思っていると、コルネリアがこちらへと視線を移した。 「ジェラルド様にもお知りになる権利があるかと存じますのでご説明いたします」 「だ、だめ、言わないで……!」  皇女が立ち上がって懇願するが、コルネリアはそれを無視して言葉を続ける。 「皇女殿下は今、他の男性の御子を身籠もっていらっしゃるのです」 「……は?」
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