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待ちあわせの駅のステンドグラスの前に私はいた。
視界に彼が入ってくる。
駆け足で私のところへやってくる。
ストレートの黒髪が揺れる。
未だに惚れ惚れするほどのフォームの手足。
そして紺色のコートは、いつも前のボタンを留めない。これも学生時代からの彼の癖。
「ごめん、はーっ、はーっ。電車1本乗り遅れた」
彼――高品民(たかしな・たみ)は、両手を膝に置き、身体を半分に折って、肩で大きく息をする。
民は今、法律系の職に就いている。
モロ、事務の仕事だ。一日中座りっぱなしだという。
大学までずっと陸上部だった彼。
「どうしたの、そんなに息上がらせて。運動不足?」
私、小梨香澄(こなし・かすみ)は、民の背中をさする。
「うん。そうかも。はーっ、はーっ」
「キオスクでお水でも買ってくる?」
「うん、いや、大丈夫」
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