ポケットの中

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 去年の年の瀬は思いの外暖かく、暖冬の影響をまたテレビの情報番組などでは、冬草が剥き出しになったスキー場の景色を画面に映したりして、いつものから騒ぎが始まっていたのを黙らせるかのように、年が明けると、暦の上では早春だが、思い出したように冬らしい寒さが寒冷前線と共にやって来て、久しぶりに遠路帰省した青山航も、子供たちと出掛けた初詣で、身体を震わせた。  航の三人いる子供たちは、末っ子を残してすでに成人しており、長男は航に似ていつまでもフリーターをしながら自分の人生を決めかねているが、長女は大学に行き、末っ子はまだ未成年であるのに、もう結婚すると言っている。  航の妻はここにはいない。  末っ子が小学校に入学した年に、航は離婚したのだ。  航の八つ年下の元妻は当初、純粋な女だった。  若くて、素直で真っ白。  最初、航の元妻に対する印象はそんな感じで、どんな色にも染まると思える、本当に純粋な女だった。
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