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夜道を一人歩く。足早に歩く。家の中に入るときのシュミレーションを頭の中でしながら歩く。キーケースを取り出し、素早く家の鍵を手探りで選び出し、鍵穴に挿す。回す前に左右と背後を確認する。人の気配がないとみて、解錠し、ドアはごく細く開け、体を滑り込ませる。後ろ手に閉めて親指でつまみを弾くように施錠する。
大丈夫、大丈夫、大丈夫じゃないと思う。
怖い怖い怖い。
だって、ポケットの中には鍵があるはずだったのに。
ポケットの中には手があった。皺に覆われた、細い指を持った手だった。その手が、私の手をぎゅっと握ってる。ポケットの中で。
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