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ズボッ、ズボッと雪を踏みしめながら近付いて来る音に思わず振り向く。
「野菜カレーは美味だが、野菜が底に溜まるのが難点なんだよな」
「そうなんですか?」
「ああ、兄ちゃん初めてか」
声をかけて来た灰色の作業着姿のおじさんは、顔が異様な程真っ赤だ。
「はあ、噂では」
「じゃあ、ラッキーだったな。さっき、補充したばかりだから全種類あるぞ」
「えっ、おじさんーーじゃなくて、あなたが補充を?」
「いや、俺は近くの工場で働いているカレーじじいだ。家族にもそう呼ばれている」
危うくカレーじじいと呼びかけそうになった。
「ーーそれより、それは?」
ビーフカレー(地獄谷)を、「これか?」と、言ってゴミ箱にガラリと捨てた。
「もう、カレーじじいは五辛じゃ燃えなくてね。もっぱら地獄谷よ」
「地獄谷……」
そんなカレーはここには無いのだが、別の自動販売機では売っているのだろうか。
「カレードリンクはよく飲まれるんですか?」
シュッシュッと口から煙が出て、今にもポッポーと叫びそうだ。
「まあな。発売当初からのファンよ」
「へえ」
「兄ちゃん、ここまで来たらあとは底無しよ」
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