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「好きなんです、一騎さんが……」
溢れる涙とともに、溢れる想いを口にした。
ああ、ダメだ。契約違反だ。
そう思うけれど、もう止められない。
「どうして、お前はそんな嘘をつく?」
だから、嘘じゃないってば。
そう言いたいのに、涙が溢れてうまく言葉が紡げない。
「お前は残酷だな。そうやって嘘をついて、俺の心をかき乱す」
「え?」
涙を手のひらで拭うと、困ったように笑う一騎さんがいた。
「お前が好きなのは、後藤だろ?」
「……は?」
思わず声が漏れた。
溢れていた涙が引っ込んだ。
「後藤さん? え? 何で後藤さんが出てくるんですか?」
呆然としていると、目の前でぱちくりと目を見開く一騎さん。
「……違うのか?」
「……むしろ、どうしてそう思ったんですか?」
私も驚き、瞬きを2、3度繰り返した。
どうやら、彼も同じ動きをしていたらしい。
「一騎さん、私が後藤さんのこと好きだと思ってたんですか!?」
思わず前のめりでそう言うと、一騎さんはコクリと頷く。
「お前、後藤といる時は楽しそうだったし、よく笑って――」
「後藤さんは一騎さんのこと相談に乗ってもらってただけです! 好きでもなんでもありません! それに、嘘じゃないって言ったじゃないですか! 私が好きなのは、一騎さんなんです!」
口早に言った。
大声で言った。
言い切ってから、気付いた。
暗いけれど、広い会場。
そこで、スポットライトを浴びながら、まるで痴話喧嘩を始める夫婦。
慌てて周りを見回した。
しんとした、招待客。
和成さんまでもが、ポカンとこちらを見ていた。
嘘……。
私、こんなに大勢の前で、一騎さんに、告白を……!?
急にかぁぁぁと頬が熱くなり、耳まで熱くなった。
その場から逃げ出したくなって、招待客の輪の中に行こうとした。
それなのに。
右腕を掴まれた。
そのまま、身体が後ろに引かれた。
その勢いで身体が半転すると、そのまま大きな胸に抱きとめられた。
そのまま、右腕を掴んだ手が、私の背中に回る。
嘘、何で……!?
私は一騎さんに、抱きしめられていた。
「嘘でないと、言ったな」
彼の腕の中で、コクンと頷いた。
「契約違反だな」
その声が、私にはとても優しいものに聞こえて、ふと顔を上げた。
すると、一騎さんの顔が、私の顔に近づいてきて――
「俺も、同犯だ」
――私の唇を、優しく塞いだ。
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