6ー3 守りたいもの

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「好きなんです、一騎さんが……」  溢れる涙とともに、溢れる想いを口にした。  ああ、ダメだ。契約違反だ。  そう思うけれど、もう止められない。 「どうして、お前はそんな嘘をつく?」  だから、嘘じゃないってば。  そう言いたいのに、涙が溢れてうまく言葉が紡げない。 「お前は残酷だな。そうやって嘘をついて、俺の心をかき乱す」 「え?」  涙を手のひらで拭うと、困ったように笑う一騎さんがいた。 「お前が好きなのは、後藤だろ?」 「……は?」  思わず声が漏れた。  溢れていた涙が引っ込んだ。 「後藤さん? え? 何で後藤さんが出てくるんですか?」  呆然としていると、目の前でぱちくりと目を見開く一騎さん。 「……違うのか?」 「……むしろ、どうしてそう思ったんですか?」  私も驚き、瞬きを2、3度繰り返した。  どうやら、彼も同じ動きをしていたらしい。 「一騎さん、私が後藤さんのこと好きだと思ってたんですか!?」  思わず前のめりでそう言うと、一騎さんはコクリと頷く。 「お前、後藤といる時は楽しそうだったし、よく笑って――」 「後藤さんは一騎さんのこと相談に乗ってもらってただけです! 好きでもなんでもありません! それに、嘘じゃないって言ったじゃないですか! 私が好きなのは、一騎さんなんです!」  口早に言った。  大声で言った。  言い切ってから、気付いた。  暗いけれど、広い会場。  そこで、スポットライトを浴びながら、まるで痴話喧嘩を始める夫婦。  慌てて周りを見回した。  しんとした、招待客。  和成さんまでもが、ポカンとこちらを見ていた。  嘘……。  私、こんなに大勢の前で、一騎さんに、告白を……!?  急にかぁぁぁと頬が熱くなり、耳まで熱くなった。  その場から逃げ出したくなって、招待客の輪の中に行こうとした。  それなのに。  右腕を掴まれた。  そのまま、身体が後ろに引かれた。  その勢いで身体が半転すると、そのまま大きな胸に抱きとめられた。  そのまま、右腕を掴んだ手が、私の背中に回る。  嘘、何で……!?  私は一騎さんに、抱きしめられていた。 「嘘でないと、言ったな」  彼の腕の中で、コクンと頷いた。 「契約違反だな」  その声が、私にはとても優しいものに聞こえて、ふと顔を上げた。  すると、一騎さんの顔が、私の顔に近づいてきて―― 「俺も、同犯だ」  ――私の唇を、優しく塞いだ。
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