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社長にそのまま手を引かれ、やってきたのはホテルのエレベーターホール。
「えっと、これから何を――?」
「俺と付き合え」
ちょうど1階に着いたエレベーターに乗り込みながら、社長は淡々とそう告げた。
「……ですから、何を?」
「分からないか? 付き合え、ということは、恋人になれ、という意味だ」
「……はぁ?」
疑問符が頭の上に何個も浮かぶ私をよそに、彼はエレベーターの階数ボタンを押す。
光ったのは、最上階である39階のボダンだ。
「フリでいい。お前はこれから、俺の恋人だ。俺のそばで笑っていろ。それだけだ」
「え、ちょっと……」
言うが早いか、エレベーターが止まりその扉が開く。
すると、社長の手が、私の腰に触れた。
そのままぴったりと引き寄せられ、ガッチリと掴まれる。
「ほら、行くぞ」
一瞬たりともニコリとは笑わない社長は、私を先程よりも力強くエスコート(というより捕獲)したままエレベーターを降りる。
それで私は、事態が飲み込めないまま、その階の高級レストランに足を踏み入れることになった。
◇◇◇
「誰、その女」
レストラン奥、急にフカフカになった絨毯を踏んだ先。
給仕さんに開かれた扉に足を踏み入れるやいなや、そこに座っていた女性がそう言った。
投げられたのは、冷たく突き刺さる視線。
私がビクンと肩を揺らすと、社長は私の腰を抱いていた手に力を入れた。
逃げるな、ということらしい。
「彼女と、お付き合いをしている」
社長の抑揚のない声が、個室に響いた。
「……はぁ?」
彼女は立ち上がり、私の方へ高いヒールをカツカツ鳴らしながらやってくる。
つり上がった目、皺の寄った眉間。
絶対、怒ってる。
これ、修羅場だよね……?
私は俯いた。
彼女の胸元に光る、ダイヤのネックレスが眩しい。
「何でアンタみたいなやつが、一騎と結ばれるの? 意味わかんない」
「やめろ、美姫」
社長がぐっと、腰を抱き寄せた。
彼女とは離れたけれど、より空気が張り詰める。
彼女はタタッと席に戻り、小さな鞄を手に取る。
そしてそのまま、カツカツとヒールを鳴らしながら、私の横を通り過ぎ――
ビシャンっ!
――テーブルの上のお冷の水を私に浴びせて、彼女はその場から立ち去った。
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