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見上げた一騎さんは、威圧感を保ったまま凛として、静かに私の肩をしっかりと抱き寄せる。
その動作に、胸がドキドキと高鳴って、こんな時なのに、かっこいいと思ってしまう。
慎司さんはチっと舌打ちをして、そのままカフェを出て行ってしまった。
それで、私はほう、と息を吐き出した。
すると、立ったままの一騎さんが、私の肩から手を退ける。
それが、少し寂しいと思ってしまったけれど。
「俺たちも、帰ろう」
「え……?」
見上げれば、右手を差し出す一騎さん。
その顔が、少しだけ笑っているように見える。
私はコクリと頷くと、一騎さんに左手を伸ばした。
すると、がっちりとその手を掴まれる。
しっかりと手を繋いだまま、私たちはカフェを後にした。
◇◇◇
昼前の通りを、一騎さんと手を繋いで歩く。
それが、何だかデートみたいだ、なんて思ってしまった。
「どうした?」
不意に、一騎さんがこちらを見下ろす。
「いや、別に……」
ジロジロ見ていたのがバレたのか。
急に恥ずかしくなって、私は俯いた。
「あの、一騎さん……」
「ん?」
呼びかけると、一騎さんは前を向いたまま、歩みを止めずに返した。
だから、私も歩きながら続けた。
「どうして、来てくれたんですか? 会場の下見は――」
「そんなもの、とうに終わった」
一騎さんは淡々と言った。
「でも、私は――」
「旦那が妻の心配をした。それだけだ」
「え……?」
一騎さんは、私を心配して、来てくれた?
でも、どうして?
私、友人に会う、としか――。
「寝起きのお前が、おかしかったから」
心の声だったのに、その疑問に答えるように、一騎さんは淡々と言う。
「結婚した日に、お前のスマホのGPSが俺の所でもキャッチできるようにしておいた。下見が終わって来てみれば、カフェの外からお前が泣いているのが見えた」
でも、それって――。
「助けてくれたんですね」
「ああ。結果的に、そういうことになる。だが――」
一騎さんは、チラリともこちらを見ずに続けた。
「――あの時は、身体が勝手に動いていたんだ」
一騎さんはそう言うと、少しだけ歩く速度を早めた。
私は繋がれた手が離れないように、そっと手を握る力を強める。
すると、一騎さんも同じように、そっと握り返してくれた。
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