5ー3 ヒーロー

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 見上げた一騎さんは、威圧感を保ったまま凛として、静かに私の肩をしっかりと抱き寄せる。  その動作に、胸がドキドキと高鳴って、こんな時なのに、かっこいいと思ってしまう。  慎司さんはチっと舌打ちをして、そのままカフェを出て行ってしまった。  それで、私はほう、と息を吐き出した。  すると、立ったままの一騎さんが、私の肩から手を退ける。  それが、少し寂しいと思ってしまったけれど。 「俺たちも、帰ろう」 「え……?」  見上げれば、右手を差し出す一騎さん。  その顔が、少しだけ笑っているように見える。  私はコクリと頷くと、一騎さんに左手を伸ばした。  すると、がっちりとその手を掴まれる。  しっかりと手を繋いだまま、私たちはカフェを後にした。  ◇◇◇  昼前の通りを、一騎さんと手を繋いで歩く。  それが、何だかデートみたいだ、なんて思ってしまった。 「どうした?」  不意に、一騎さんがこちらを見下ろす。 「いや、別に……」  ジロジロ見ていたのがバレたのか。  急に恥ずかしくなって、私は俯いた。 「あの、一騎さん……」 「ん?」  呼びかけると、一騎さんは前を向いたまま、歩みを止めずに返した。  だから、私も歩きながら続けた。 「どうして、来てくれたんですか? 会場の下見は――」 「そんなもの、とうに終わった」  一騎さんは淡々と言った。 「でも、私は――」 「旦那が妻の心配をした。それだけだ」 「え……?」  一騎さんは、私を心配して、来てくれた?  でも、どうして?  私、友人に会う、としか――。 「寝起きのお前が、おかしかったから」  心の声だったのに、その疑問に答えるように、一騎さんは淡々と言う。 「結婚した日に、お前のスマホのGPSが俺の所でもキャッチできるようにしておいた。下見が終わって来てみれば、カフェの外からお前が泣いているのが見えた」  でも、それって――。 「助けてくれたんですね」 「ああ。結果的に、そういうことになる。だが――」  一騎さんは、チラリともこちらを見ずに続けた。 「――あの時は、身体が勝手に動いていたんだ」  一騎さんはそう言うと、少しだけ歩く速度を早めた。  私は繋がれた手が離れないように、そっと手を握る力を強める。  すると、一騎さんも同じように、そっと握り返してくれた。
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