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そのまま歩き続けた私たち。
やがて私たちの住むタワーマンションが見えてくる。
家についたら、この手を解かなきゃいけない。
でも、もう少しだけ、繋いでいたいな。
そんな私の想いを察したのか、突然「ぐ〜」っと腹の虫が鳴き出した。
少しだけ前を歩いていた一騎さんが、その音に振り返る。
え、そんなに音大きかった!?
急に頬が熱くなって、慌ててうつむくも時既に遅し。
彼の視線は、私のお腹に注がれていた。
「なんか、スミマセン、私……」
「飯でも食ってくか?」
「え?」
彼の視線は、私たちの歩いていた道の横に注がれていた。
そこにあるのは、高級ハンバーガーショップ。
「いいんですか?」
「ああ、たまには、な」
◇◇◇
私は注文したマッシュルームパティハンバーガーは、お皿に乗って提供された。
その隣には、ポテトが添えてある。
本当は、ここは手で持ってがぶりとかじりつきたいところだけれど。
私は戸惑いながらも、フォークとナイフを手にとる。
すると――
「手で食べればいいだろ」
え? と彼を見た。
目の前で、一騎さんが机に頬杖をついてこちらを見ていた。
「でも……」
「好きなように食べればいい。俺しか見ていない」
ため息混じりにそう言った一騎さんを見て、なぜだか嬉しくなる。
だから、その大きなハンバーガーを両手で挟んで口もとへ運んだ。
大きな口を開けて頬張れば、その美味しさに頬が落ちそうになる。
「うまいか?」
「はい、とっても」
もぐもぐと口を動かしながら答える。
1つ3000円のハンバーガーって、こんな味がするんだ。
それは、今まで食べたどのバーガーよりも、絶品で。
美味しさに思わず止まらなくなり、どんどんと食べ進めていった。
やがて最後のひとくちを口に放ると、とても幸せな気持ちに満たされた。
やっぱり、美味しいものって最高!
そう思っていると――
「ふっ」
と、不意に笑う声がして、慌てて目の前の彼を見た。
「俺は、人と食事をするのが苦手なのだが」
ビクンと身体が跳ねた。
「いい。どうせ後藤が言ったんだろ」
私の言わんとしたことを言われ、ほう、と息を吐き出した。
「だが、お前が食べている姿を見るのは、好きかもしれない」
そう言った一騎さんの口角が、いつもより少し上がっているような気がして――。
どうしよう。
私、今、幸せだ。
どうしようもなく。
一騎さんが、好きだ。
そう、思ってしまった。
明日のパーティーが終わったら、この契約は終わってしまうというのに。
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