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6ー1 創業パーティー
それから、家に帰るまで、一騎さんはずっと手を繋いでいてくれた。
エレベーターに乗っても、その手を繋いだままでいてくれた。
その手からドキドキが伝わってしまいそうで、心配になる。
けれど、その手を離したくはない。
エレベーターが部屋につかなければいい、だなんて思ってしまうくらいに。
けれど、エレベーターは部屋に私たちを運ぶのが仕事なわけで。
最上階についたエレベーターを降りると、彼は私の手をさっと離してしまった。
「明日が勝負だからな。今日はもう休め」
一騎さんはそれだけ言うと、廊下の奥に姿を消してしまった。
私も膨れ上がる気持ちに蓋をして、ノロノロと部屋に戻り、そのままベッドにダイブした。
先程のハンバーガー店で見た、一騎さんの柔らかい表情を思い出して、胸がトクンと跳ねた。
『身体が勝手に動いていた』
そんな彼の言葉も思い出され、胸がキュウとなった。
少しだけれど、気持ちが近づいたのかもしれない。
そう思うと、抑えていたはずの気持ちが、どうしようもなく溢れ出す。
けれど、私たちが夫婦でいられるのは、あとたった1日だ。
それに、私たちの契約では、“互いに一切恋愛感情を持ってはいけない”。
だから、きっと一騎さんは、言わない。
それに、私も、言えない。
この気持ちを、一騎さんに返す、唯一の方法。
それは、きっと――
私は、ベッドから身体を起こすと、机に向かった。
――明日のパーティーで、“妻”の役目を、最後までしっかりと果たすこと。
私と一騎さんの関係は、ここで終わってしまうけれど、彼が親会社の社長になれるよう、最後までしっかりと彼の“妻”でいよう。
それで、一騎さんの望むものが手に入るなら、私もそれが一番いい。
そんな想いを胸に、私はパーティーの招待客の名簿を、もう一度頭に叩き込み始めたのだった。
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