6ー1 創業パーティー

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 一夜明け、ついにパーティーの当日になった。  いつものように、一騎さんは起きぬけの私にキスを落とす。  これが最後のキス。  そう思うと、どうしても胸がキュウと締め付けられる。 「そんな顔をするな」  一騎さんは、起きたばかりの私の頬を、その手の甲でそっとなぞる。 「今日は頼んだぞ」  じっと私の目を見て、そう言ってから部屋を出ていった。  私、一体どんな顔をしていたの?  ◇◇◇  そのままパーティー会場に入り、控室でドレスに着替えた。ヘアメイクも、その場でプロの人たちに仕上げてもらう。 「うわぁ……」  思わず感嘆の声を漏らした。  小一時間で鏡の前に現れたのは、私じゃない。  そこにいるのは、ローズレッドのドレスに身を包んだ、“社長夫人”だ。 「蘭……」  名前を呼ばれ、振り向いた。  隣の部屋にいた一騎さんが隣にやってきたのだ。  彼も、今日はグレーのパリっとしたタキシードに身を包んでいる。ネクタイとハンカチが、私のドレスとお揃いのローズ色だ。  かっこいい。  思わず見惚れてしまうと、一騎さんは眉間に皺を寄せた。 「何をぼさっとしている、阿呆」  一騎さんはそう言って、私に左手を差し伸べる。  口調も動作も、いつもと同じなのに。  王子様みたい……。  そんなことを思いながら、私は差し出された左手に、自分の右手を乗せた。  やがてパーティー会場に入る。  前回とは比べ物にならないくらいの会場の広さ、人の多さに、思わず足がすくんだ。 「大丈夫だ、堂々としていろ」  一騎さんはそう言って、私の腰を抱く。  そんな彼にエスコートされながら、私は彼とともに会場の中央に歩み出る。 「一騎社長だ」 「隣は奥さんか?」 「一般人って聞いてたけれど、綺麗な人じゃないか」  そんなヒソヒソと話す声が聞こえる。  前の私なら、俯いてしまっただろう。  けれど、今の私なら。  私は顔をあげ、胸を張り、声の方に笑みを向けた。 「おお」と会場にどよめきが起こる。  プレスの腕章をつけた人たちが、こちらにカメラを向けるのが見えた。  それでも、私は終始“にこやかに、堂々と”を心がけ、彼の隣で必死に“社長夫人”を努めた。
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