6ー1 創業パーティー

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 大きな問題もなく、そのままパーティーは終わりに近付く。  残るは、一騎さんの挨拶と、親会社、亀嶋食品の社長で一騎さんのお義父さん、大吉さんの挨拶だけだ。  ここまで順調にパーティーが進んだことにほっとしつつ、私は一度お手洗いに席を立った。  手洗いの鏡に写った、自分の姿をじっと見つめた。  そこにはちゃんと“社長夫人”がいて、ほっと安堵の息を漏らした。  大丈夫。  私は、ここまでちゃんと、役割を果たせてるんだから。  あとは、一騎さんがこのまま私との結婚を報告して、亀嶋食品の社長になるのを見届けて――。  そうすれば、私の役目は終わりだ。  この、契約結婚生活も終わりだ。  そうしたら、私は一騎さんと離婚して、一人になって、そこから私の人生、再スタートだ。  大丈夫。  大丈夫だから――。  そう思うのに、目頭がつんと熱くなり、慌てて涙を堪えた。  ここで泣いてしまっては、“社長夫人”が崩れてしまう。  笑うの。  笑うんだ、蘭。  鏡の前でもう一度笑顔を貼り付けて、私はお手洗いを後にした。  会場に戻る途中、私は角から歩いてきた人物とぶつかってしまった。 「おっと、失礼」  その男性は、私が“社長夫人”であることに気付かず、そのまま廊下の先へ行ってしまった。  けれど、私はひどく動揺した。  嘘、何で?  ――そこで、私にぶつかったのは、私の元婚約者、鮫川慎司だったのだ。  ◇◇◇  嫌な予感を胸に残したまま、パーティー会場に戻った。  すると、すぐに一騎さんが私を見つけて、さっと隣に寄り、エスコートしてくれる。 「ねえ、一騎さん……」  言いかけてから、言うべきか迷って、口を噤んだ。  あの人はライバル社の企画部部長。  今日の招待客のリストに彼はいなかったけれど、もしかしたら招待されている森元製菓の関係者に、何か急用があっただけかもしれない。  何より、私に気付かずに、急いで行ってしまった。  だから、きっと何もない……はずだ。 「ん?」  一騎さんが身体を私の方に傾けたけれど、私は「何でも無いです」と、笑顔で彼に返した。  すると、今度は会場の入り口にいた後藤さんが、こちらにやってきた。 「社長、そろそろご挨拶のお時間です」 「ああ」  そう言うと、一騎さんは会場の高砂台まで私をエスコートする。  その下で私の腰から手を離すと、一度私の頭に手を載せた。  私はそっと一騎さんと目配せをする。  すると、彼は一度うなずいて、それから堂々と高砂台の中央へ歩いていく。  もうすぐ、契約が、終わる。  そんなことを思いながら、私は一騎さんを見守った。
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