6ー1 創業パーティー

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「本日は、我が社の創業20周年パーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。本日皆様におかれましては、……」  無事、一騎さんのスピーチが始まる。  暗くなった会場で、スポットライトを浴びる一騎さんは、やっぱり我が社の社長の顔をしている。  そんな彼と、1ヶ月も結婚生活を送っていただなんて、まるで嘘みたいな話だ。  けれど、その結婚も、今日で終わりだ。  私は、彼のスピーチを聞きながら、この1ヶ月に思いを馳せた。  最初は、面識のない鬼社長だった。  人生のどん底から救ってくれたけれど、契約結婚させられて、そのまま結婚生活が始まった。  その中で、何度も泣いた。  何度も失敗して、泣いた。  何度も傷ついて、泣いた。  けれど、その度に、彼の優しさに気付いた。  その度に、彼の孤独を垣間見た。  気付いたら、好きになってた。  大切な人に、変わってた。  だから、私は今日ここで“社長夫人”でいられることが、嬉しい。  彼の隣に立っているのが、たとえ今日で最後だとしても、私だっていう事実が嬉しいんだ。  やがて、会場内に拍手が響く。  一騎さんはそれを片手を挙げて制すると、もう一度口を開いた。 「そして、最後に。私事ではございますが、1ヶ月前に入籍いたしました。これで、父の提示した条件を満たしたこととなり、今後は亀嶋製菓だけでなく亀嶋食品の社長として――」 「――ちょっと待った!」  急に、会場から不穏な声があがる。  もう少しで、彼のスピーチが終わるところだったのに。  一騎さんはその声の方をギロリと睨み、冷たい視線を浴びせる。  けれど、その声の主は徐々に高砂台に近づき、やがて彼の真下までやってくる。  ニヤリと、不穏な笑みを浮かべて現れたのは、亀嶋製菓のライバル社である森元製菓の専務、森元和成さん――一騎さんのライバル――だった。
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