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6ー3 守りたいもの
一度、一騎さんを振り返った。
彼は怒ったようにこちらを見ていたけれど、私は前に向き直り、続けた。
「彼は私を愛しています。だから、私を守ろうと、今デタラメを並べて、私を悪者にならないように仕立ててくれました。でも……私は、本当は……森元製菓に近づいた、スパイで、それを一騎さんは知らなかっただけで……」
ダメだ。
言いながら、しどろもどろになってしまった。
こういう時に、毅然としたままでいられる一騎さんが羨ましい。
会場中の好奇の目が私を見ている。
その事実に、怯んでしまった。
一騎さんを守れるのは、私しかいないのに。
いつの間にか握りしめていた両手の拳に、力が入った。
わなわなと肩が震えて、上手く言葉が紡ぎ出せない。
ダサい。
悔しい。
「私は……私は……」
ダメだ、と思うのに、ついに涙が溢れ出した。
その時。
「嘘はやめろ、蘭」
一騎さんの優しい声が、すぐ後ろから降ってきた。
けれど。
「嘘じゃない……」
私は振り向いた。
泣きながら、壊れそうになりながら。
私も、あなたを守りたかったから。
「嘘じゃないですよ、一騎さん」
声を張り上げた。
振り返った先で、一騎さんは困ったように眉を下げていた。
「嘘じゃない、ですよね?」
お願い。
私の言ったこと、嘘じゃないって、言って。
それで、あなたが守れるなら。
私は、それで構わない。
――それなのに。
「嘘を言うのはやめろ、蘭」
一騎さんは、私の頭に大きな手を置いた。
「お前が俺をかばったって、お前に何の得もないだろう。俺はお前を悪者にしたくはない」
「私だって……私だって、一騎さんを守りたいんです……」
涙が溢れた。
頭に乗せられた大きな手に、安心したからじゃない。
守られてる。
何を言っても、私はこの人に守られることしかできない。
それが、悔しいからだ。
だったら、何を言ったって――。
「好きだから……」
私は溢れる涙の向こう、スポットライトを浴びる一騎さんを、じっと見つめた。
「一騎さんが好きだから、守りたいんです」
「もういい。嘘はよせ」
彼の優しい言葉が、胸に刺さる。
でも――
「嘘じゃない……です」
私のこの気持ちは、嘘じゃない。
私は、一騎さんが、好きだから。
だから、守りたいんです。
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