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社長の顔をじっと見た。
その無表情が、だんだん優しい顔に見えてくる。
「婚約者と同棲するつもりだったから、家も来週末で引き払っちゃう予定で。仕事も来週末で寿退社の予定で。婚約破棄されただけじゃなくて、住むところも仕事もなくなっちゃう。そんな人生のどん底にいたんです。でも、少しだけ救われたっていうか、希望が見えたっていうか……」
喋りながら、惨めさが私を襲う。
それでまた俯いて、涙がボロボロと溢れた。
悔しい。悲しい。でも、どうしようもない。
私には、何も無くなってしまうんだ。
「おい、お前……」
社長の淡々とした声色が、妙に心地良い。
感情のない声だから、優しく聞こえても、同情には聞こえないのだ。
「……お前の婚約者は、俺だ」
優しい声だ。
今の私には、ちょうどいい。
「だから、俺と結婚しろ」
何もない私には、ちょうどいい。
「聞いているのか?」
「……え?」
「お前、俺と結婚しろ」
はいっ!?!?!?
驚き目を見張る。
しかし、社長は相変わらず無表情のまま腕を組み、こちらを見ていた。
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