1ー3 人生のどん底

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 社長の顔をじっと見た。  その無表情が、だんだん優しい顔に見えてくる。 「婚約者と同棲するつもりだったから、家も来週末で引き払っちゃう予定で。仕事も来週末で寿退社の予定で。婚約破棄されただけじゃなくて、住むところも仕事もなくなっちゃう。そんな人生のどん底にいたんです。でも、少しだけ救われたっていうか、希望が見えたっていうか……」  喋りながら、惨めさが私を襲う。  それでまた俯いて、涙がボロボロと溢れた。  悔しい。悲しい。でも、どうしようもない。  私には、何も無くなってしまうんだ。 「おい、お前……」  社長の淡々とした声色が、妙に心地良い。  感情のない声だから、優しく聞こえても、同情には聞こえないのだ。 「……お前の婚約者は、俺だ」  優しい声だ。  今の私には、ちょうどいい。 「だから、俺と結婚しろ」  何もない私には、ちょうどいい。 「聞いているのか?」 「……え?」 「お前、俺と結婚しろ」  はいっ!?!?!?  驚き目を見張る。  しかし、社長は相変わらず無表情のまま腕を組み、こちらを見ていた。
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