6ー4 契約満了

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「亀嶋食品の社長、残念でしたね」  情事の後の空気が、嬉しくて恥ずかしくて。  腕枕されたまま、ついそんなことを口走ると、一騎さんはふっと笑った。 「色気のない話をするんだな、お前は」 「すみません、こういうの、恥ずかしくて……」  けれど突然、一騎さんの唇が私の唇に降ってくる。  優しく一度触れて、それはすぐに去っていった。 「いいんだ、それは、追々手に入れる。それより、――」  一騎さんがこちらをじっと見つめた。 「――今は、お前を手に入れられたから、それでいい」  その優しい瞳は、私だけが知っている彼の表情。 「なあ、蘭……」  甘えるような声で名前を呼ばれて、心臓がトクンと跳ねた。  それなのに、一騎さんは突然起き上がると、ベッドを降りて行ってしまう。  行かないで、と声を出しかけて、すぐに戻ってきてくれたことに安堵した。  そして、その彼の手に握られていたものに、驚き目を見張った。 「それ……」  それは、今秋発売予定のKAMEJIMAチョコのサンプルだった。 「これ、お前が作った味なんだろ?」  コクンと頷くと、その箱をじっと眺めた一騎さんは、徐ろにその封を解く。 「腹が減ったんだ」 「え?」 「食べさせてくれないか?」  そう言って、その箱を手渡される。  私は起き上がって、彼の開けた箱から、チョコを一粒取り出した。  それを、手で摘むけれど。 「いいんですか?」 「ああ」 「無理してませんか?」 「ああ」 「でも……」 「後藤には、してただろ?」 「え……?」  いつだったか、このチョコのサンプルを貰った日の事を思い出す。  そういえば、あの時、私、後藤さんにあーんってして――。 「……見てたんですか!?」 「ああ。悪い」  一騎さんは、私から目を逸し空をさまよってから、もう一度私に視線を戻した。 「だが、俺も――お前にそうやって食べさせてもらったら、食べられるかもしれないと、思ったんだ。だから……」  一騎さんの頬が、少しだけ紅潮するのが分かった。  なんだか、少し可愛い。 「無理だったら、出していいですからね」 「ああ」 「じゃあ、えっと……あーん」  口を開いた一騎さん。そこに、私はそのチョコをそっと入れた。  コロンと、彼の口の中にチョコが転がっていく。 「どう……です、か?」 「ん……」  ごくり、と、彼の喉が動いた。  けれど、彼は優しく笑って―― 「甘いな」  ――そう言って、私にキスを落とした。  そのキスは、また深くなって、私はまたベッドに押し倒される。 「お前の、おかげだな」  耳元でそう囁いた一騎さん。  嬉しくて、恥ずかしくて、彼にきゅっと抱きつくと、それを合図に一騎さんも私を抱く手に力を込める。  私たちはその日、外が白むまでお互いの愛を求めあった。
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