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1ー4 契約
「婚約者というのは、結婚の約束をした者という意味だ」
そりゃそうですけど!
「それで、俺はお前の婚約者だ。だから、結婚しろ」
でもでもでもでもっ!!
「あれって、フリだったんじゃないんですか?」
「フリだと、いつ言った?」
……言ってない、気がする。
「でも、社長が私と結婚して何の意味が……」
「意味はある。ウィン・ウィンだ」
ウィン・ウィンということは、私が社長と結婚することに私にもメリットがあるということだ。
意味が分からない。
「結婚と言っても、お前とは契約結婚をしたい」
「ケイヤク……ケッコン……?」
「ああ。離婚する前提での結婚を申し込みたい。期限は1ヶ月だ」
「それに、一体何の意味が……」
「1ヶ月後、亀嶋製菓創業20周年のパーティーがある。その時に俺がパートナーとして妻を紹介できれば、俺は親会社である亀嶋食品の社長になれる」
「……はぁ?」
「俺の父がそう言った。親会社の社長の地位は、結婚したら譲る、と」
でも、それなら――
「さっきの女の人で良かったじゃないですか」
「良くない」
淡々と静かに、でもその一言だけは空気を威圧するように投げられた。
「俺は仕事で父を越えたいと思っている。そのために、どうしても結婚という肩書が欲しい。だが、女というのは面倒臭い生き物だ。愛だの恋だのを欲しがる。だが今のお前は婚約者に裏切られて傷心中。愛だの恋だの言って俺に面倒をかける確率は、極めて低いとみた」
つまり、愛のない1ヶ月の契約結婚をしろ、ということか。
「でも、それで私に何のメリットが……?」
「住居と仕事を、提供する」
「え!?」
「もちろん、離婚後も保証する。どうだ、ウィン・ウィンだろ?」
淡々と仕事のように話を進める社長。
確かに、ウィン・ウィンではある。
でも、結婚って――
「離婚前提で結婚できるお前は、俺にとっては理想の相手だ。どうだ? 乗らないか?」
「あの、万が一断ったら……」
「お前のご両親に、お前に頼まれて婚約者のフリをさせられた、と、報告する」
「え!? それは……」
先程、婚約を喜び涙ぐんだ父と母の顔が脳裏に浮かぶ。それから、嘘だと打ち明け悲しい顔をする両親を思い浮かべた。
「どうだ? 乗るか?」
「……乗ります」
私は静かに、そう答えた。
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