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<隅中 巳の刻> 幕間
夜霧の敷地に陽光が射していた。
本宅から出てきた孤独が一度大きく背伸びをした。
それから南東にある巽の宅の方へ目を向けた。
それからしばらくその場で様子を窺っていたが、
「ちっ」と舌打ちをすると東回りに歩き出した。
しかし、三歩進んだところで足を止めると、
「一二三の姉貴に話を通しておくか・・」
と独り言ちてから卯の宅の方へ進路を変えた。
孤独の顔には自ずと笑みが浮かんでいた。
不意に一陣の風が吹いた。
孤独の足がふたたび止まった。
孤独はヒクヒクと鼻を動かすと
素早く周囲に目を走らせた。
そして懐から鉤爪を取り出して装着すると
大きな目を見開いて身構えた。
「・・陰陽、てめえか?」
孤独の表情からは笑みが消えていた。
周囲の空気が一瞬で張りつめた。
「・・姿を見せろよ」
孤独がぼそりと呟いた。
そして大きく息を吸い込んだ。
「俺様に不意打ちは通用しねえぞ。
一切の音を立てずとも、
どれだけ気配を消そうとも、
匂いだけは完全に消し去ることはできねえ。
てめえの『占術』が
どれほどのモノか知らねえが、
俺様の鼻を欺くことはできねえんだよ!」
風が止んで
遠くで鳶が「ピーヒョロロ」と啼いていた。
「・・ちっ。
どのみち、
男で残ってるのは闇耳を含めて
俺達三人だけだ。
今仕掛けてこないなら
近いうちにこっちからいくぜ。
首を洗って待ってろよ。
ひっひっひ」
孤独はくるりと向きを変えると
卯の宅ではなく
子の宅の方へ向かって歩き出した。
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