<隅中 巳の刻> 幕間

1/1
前へ
/63ページ
次へ

<隅中 巳の刻> 幕間

夜霧の敷地に陽光が射していた。 本宅から出てきた孤独が一度大きく背伸びをした。 それから南東にある巽の宅の方へ目を向けた。 それからしばらくその場で様子を窺っていたが、 「ちっ」と舌打ちをすると東回りに歩き出した。 しかし、三歩進んだところで足を止めると、 「一二三の姉貴に話を通しておくか・・」 と独り言ちてから卯の宅の方へ進路を変えた。 孤独の顔には自ずと笑みが浮かんでいた。 不意に一陣の風が吹いた。 孤独の足がふたたび止まった。 孤独はヒクヒクと鼻を動かすと 素早く周囲に目を走らせた。 そして懐から鉤爪を取り出して装着すると 大きな目を見開いて身構えた。 「・・陰陽、てめえか?」 孤独の表情からは笑みが消えていた。 周囲の空気が一瞬で張りつめた。 「・・姿を見せろよ」 孤独がぼそりと呟いた。 そして大きく息を吸い込んだ。 「俺様に不意打ちは通用しねえぞ。  一切の音を立てずとも、  どれだけ気配を消そうとも、  匂いだけは完全に消し去ることはできねえ。  てめえの『占術』が  どれほどのモノか知らねえが、  俺様の鼻を欺くことはできねえんだよ!」 風が止んで 遠くで鳶が「ピーヒョロロ」と啼いていた。 「・・ちっ。  どのみち、  男で残ってるのは闇耳を含めて  俺達三人だけだ。  今仕掛けてこないなら  近いうちにこっちからいくぜ。  首を洗って待ってろよ。  ひっひっひ」 孤独はくるりと向きを変えると 卯の宅ではなく 子の宅の方へ向かって歩き出した。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加