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ポケットの中のお菓子は幸せの香りがする (ポケットの中)
朝音は帰りの会の後、教室の後に掛けて置いていたコートを着る。手袋は持っていないから、いつものようにポケットに手を突っ込む。何も入れてないはずのポケットの中に、何かがあった。
朝音はポケットに視線をやる。
「またか……」
朝音はポケットから取り出す。
「お菓子……」
綺麗な絵の書いてあるビニール袋に、飴玉が5つ入っていた。
朝音は飴玉入りの袋を眺めながら歩く。
朝音の背中が軽く叩かれた。
振り返ると、お調子者の光井だった。
「あ、光井。何か用?」
光井は笑いながら、朝音の手に乗せられたお菓子を見る。
「何それ?」
「知らないよ。いつの間にかポケットに入っていたんだ」
「へぇ……。美味そうだな。ミルク味かぁ。おっぱいの味だな! 俺に1つくれよ!」
朝音は即答する。
「イヤだよ。やらない」
光井は朝音の肩を抱いて絡んだ。
「何でだよ! 5つもあるんだ。1つくらいくれよ。ケチ!」
「だって、誰が俺のポケットに入れたのかも分かんないんだぞ。そんな菓子なんか、光井は食べたいの?」
「大丈夫だよぅ。どうせ中居を好きな女の子が入れたんだろう? 毒なんか入ってないだろう?」
「何で女の子が入れたと思うんだよ」
「そんな可愛いビニール袋に、男がわざわざ飴なんて入れないだろう?」
朝音らが揉めていると、バドミントンラケットのケースを背中に背負った桂ちゃんがやって来た。桂ちゃんは朝音の幼友達で、家も近い。
「何してんの?」
光井が桂ちゃんを見て言う。
「あ、桂ちゃん? 今から部活?」
「違う。今日はないんだ。だからラケットのガットを張り替えに行く」
桂ちゃんも朝音の手にもたれた袋に気がつく。
「あれ、何、そのお菓子は? 頂戴よ」
「嫌だよ。それに俺にくれた物を、誰かにやれないだろう? くれたヤツに申し訳ないだろう?」
「そんなのくれたヤツが見てなきゃ分かんないだろ? くれよぉ!」
当然朝音は断る。
「イヤだよ」
光井はしつこい。
「飴の1つくらいくれても良いじゃん?」
光井が桂ちゃんを味方にしようとした。
「なぁ、桂ちゃんもそう思うだろう?」
「そうだね」
「本当、中居くれよぉ。おっぱいキャンディー。くれよぉ」
桂ちゃんが赤くなる。
「おっぱいキャンディ……」
「おい、光井。お前、桂ちゃんも女の子なんだぞ。気を使えよ」
桂ちゃんが朝音の言葉を繰り返した。
「桂ちゃんも女の子」
朝音は失言したことに気がつく。
「あ、ごめん。桂ちゃんサッパリした性格で、女を感じさせないから、男がどうしても本音を言うから、それで……それで……。そうじゃなくてぇ。もにはたいして意味がなくて……、俺はちゃんと桂ちゃんの事……」
朝音は、桂ちゃんを庇ったつもりだったのだ。でも失敗してしまった。
(好きな女の子を傷つけてしまった)
朝音は後悔する。
優しい桂ちゃんが気遣って言う。
「いいよ。私、身長が168センチもあるし。女って感じしないから……」
光井が元気に答えた。
「大丈夫だ。俺はちゃんと桂ちゃんが女に見えるぞ! モデルみたいで可愛いと思う」
桂ちゃんが笑う。
光井が飛び跳ねながら言う。
「さぁ、帰ろうぜ」
途中まで3人で帰ったが、光井が抜ける。
「じゃ、俺、あっちだから」
「また明日な」
「おうおう」
光井が跳ねながら去って行く。
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