ポケットの中のお菓子は幸せの香りがする (ポケットの中)

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 「もうイヤだぁ」  桂ちゃんが恥ずかしがって走り出す。  それで思わず朝音(アオ)が、桂ちゃんの腕を掴んだ。  桂ちゃんが腕を掴まれて、朝音(アオ)を見た。  自分を見つめる桂ちゃんに朝音(アオ)が文句を言う。 「急に走り出すなよぉ」  桂ちゃんは一瞬固まって、それから空いた手をスカートのポケットに突っ込んだ。  その手をポケットから引き抜くと、今度は朝音(アオ)のコートのポケットに挿し込んだ。  桂ちゃんのいきなりの行動に、朝音(アオ)は唖然として、桂ちゃんの手が差し込まれたポケットを見る。  桂ちゃんが恥ずかしげに言う。  「お菓子、あげる」  ポケットに入れられた手には、お菓子が握られていたのだ。  朝音(アオ)が聞く。  「また、ポケットにお菓子をくれるの?」  「うん。だって朝音(アオ)って呼んで良いんでしょう?それってつまり、私は朝音(アオ)のこと諦めなくていんでしょう?」  朝音(アオ)は、桂ちゃんの手紙を思い出す。  「そうだよ。俺のことを、勝手に諦めるなよ。俺も桂ちゃんが好きだ」  朝音(アオ)も桂ちゃんが手を入れたポケットに手を入れた。そのまま朝音(アオ)はポケットの中の桂ちゃんの手を握った。  朝音(アオ)が照れながら聞く。  「あ、俺……、手を握っちゃったぁ。つい、気持ちが行動に出ちゃった。手を繋ぐの嫌じゃないよね?」  桂ちゃんが手を握り返す。  「嬉しいよ」    朝音(アオ)が安堵して言う。  「さぁ、帰ろう。寒くなってきたよ」  ポケットの中で手を繋ぎながら2人は歩き出す。   朝音(アオ)が疑問に思っていた事を聞く。  「でも、なんでこっそりお菓子を俺のポケットに入れてたの?」  「私の気持ちを、気付いてくれないかなぁって思って。こう言うのキモいよね。私って馬鹿だよね。こんな事して気が付くわけないのに」  「でも、俺……。こうして気が付いたし」  「うん、ありがとう。嬉しいよ」  少し歩いて朝音(アオ)が聞く。  「ところで今度のお菓子は、何を入れてくれたの?」  桂ちゃんが答える。  「私の事よく知っている朝音(アオ)なら分るはずだよ。当ててみて」  真面目な顔で朝音(アオ)が言う。  「おっぱいキャンディー」  2人は笑い出す。    2人の体温で温められた菓子の匂いがポケットから溢れる。  甘く優しいバニラの香りが、恋の成就を祝福した。     ――fin――
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