3人が本棚に入れています
本棚に追加
「もうイヤだぁ」
桂ちゃんが恥ずかしがって走り出す。
それで思わず朝音が、桂ちゃんの腕を掴んだ。
桂ちゃんが腕を掴まれて、朝音を見た。
自分を見つめる桂ちゃんに朝音が文句を言う。
「急に走り出すなよぉ」
桂ちゃんは一瞬固まって、それから空いた手をスカートのポケットに突っ込んだ。
その手をポケットから引き抜くと、今度は朝音のコートのポケットに挿し込んだ。
桂ちゃんのいきなりの行動に、朝音は唖然として、桂ちゃんの手が差し込まれたポケットを見る。
桂ちゃんが恥ずかしげに言う。
「お菓子、あげる」
ポケットに入れられた手には、お菓子が握られていたのだ。
朝音が聞く。
「また、ポケットにお菓子をくれるの?」
「うん。だって朝音って呼んで良いんでしょう?それってつまり、私は朝音のこと諦めなくていんでしょう?」
朝音は、桂ちゃんの手紙を思い出す。
「そうだよ。俺のことを、勝手に諦めるなよ。俺も桂ちゃんが好きだ」
朝音も桂ちゃんが手を入れたポケットに手を入れた。そのまま朝音はポケットの中の桂ちゃんの手を握った。
朝音が照れながら聞く。
「あ、俺……、手を握っちゃったぁ。つい、気持ちが行動に出ちゃった。手を繋ぐの嫌じゃないよね?」
桂ちゃんが手を握り返す。
「嬉しいよ」
朝音が安堵して言う。
「さぁ、帰ろう。寒くなってきたよ」
ポケットの中で手を繋ぎながら2人は歩き出す。
朝音が疑問に思っていた事を聞く。
「でも、なんでこっそりお菓子を俺のポケットに入れてたの?」
「私の気持ちを、気付いてくれないかなぁって思って。こう言うのキモいよね。私って馬鹿だよね。こんな事して気が付くわけないのに」
「でも、俺……。こうして気が付いたし」
「うん、ありがとう。嬉しいよ」
少し歩いて朝音が聞く。
「ところで今度のお菓子は、何を入れてくれたの?」
桂ちゃんが答える。
「私の事よく知っている朝音なら分るはずだよ。当ててみて」
真面目な顔で朝音が言う。
「おっぱいキャンディー」
2人は笑い出す。
2人の体温で温められた菓子の匂いがポケットから溢れる。
甘く優しいバニラの香りが、恋の成就を祝福した。
――fin――
最初のコメントを投稿しよう!