ポケットの中のお菓子は幸せの香りがする (ポケットの中)

1/6
前へ
/6ページ
次へ

ポケットの中のお菓子は幸せの香りがする (ポケットの中)

 朝音(アオ)は帰りの会の後、教室の後に掛けて置いていたコートを着る。手袋は持っていないから、いつものようにポケットに手を突っ込む。何も入れてないはずのポケットの中に、何かがあった。    朝音(アオ)はポケットに視線をやる。 「またか……」  朝音(アオ)はポケットから取り出す。 「お菓子……」  綺麗な絵の書いてあるビニール袋に、飴玉が5つ入っていた。  朝音(アオ)は飴玉入りの袋を眺めながら歩く。  朝音(アオ)の背中が軽く叩かれた。  振り返ると、お調子者の光井だった。  「あ、光井。何か用?」    光井は笑いながら、朝音(アオ)の手に乗せられたお菓子を見る。  「何それ?」  「知らないよ。いつの間にかポケットに入っていたんだ」  「へぇ……。美味そうだな。ミルク味かぁ。おっぱいの味だな! 俺に1つくれよ!」  朝音(アオ)は即答する。  「イヤだよ。やらない」    光井は朝音(アオ)の肩を抱いて絡んだ。  「何でだよ! 5つもあるんだ。1つくらいくれよ。ケチ!」  「だって、誰が俺のポケットに入れたのかも分かんないんだぞ。そんな菓子なんか、光井は食べたいの?」  「大丈夫だよぅ。どうせ中居を好きな女の子が入れたんだろう? 毒なんか入ってないだろう?」  「何で女の子が入れたと思うんだよ」  「そんな可愛いビニール袋に、男がわざわざ飴なんて入れないだろう?」  朝音(アオ)らが揉めていると、バドミントンラケットのケースを背中に背負った桂ちゃんがやって来た。桂ちゃんは朝音(アオ)の幼友達で、家も近い。  「何してんの?」  光井が桂ちゃんを見て言う。  「あ、桂ちゃん? 今から部活?」  「違う。今日はないんだ。だからラケットのガットを張り替えに行く」  桂ちゃんも朝音(アオ)の手にもたれた袋に気がつく。  「あれ、何、そのお菓子は? 頂戴よ」  「嫌だよ。それに俺にくれた物を、誰かにやれないだろう? くれたヤツに申し訳ないだろう?」  「そんなのくれたヤツが見てなきゃ分かんないだろ? くれよぉ!」  当然朝音(アオ)は断る。  「イヤだよ」  光井はしつこい。  「飴の1つくらいくれても良いじゃん?」  光井が桂ちゃんを味方にしようとした。  「なぁ、桂ちゃんもそう思うだろう?」  「そうだね」  「本当、中居くれよぉ。おっぱいキャンディー。くれよぉ」  桂ちゃんが赤くなる。  「おっぱいキャンディ……」  「おい、光井。お前、桂ちゃんも女の子なんだぞ。気を使えよ」  桂ちゃんが朝音(アオ)の言葉を繰り返した。  「桂ちゃんも女の子」  朝音(アオ)は失言したことに気がつく。  「あ、ごめん。桂ちゃんサッパリした性格で、女を感じさせないから、男がどうしても本音を言うから、それで……それで……。そうじゃなくてぇ。もにはたいして意味がなくて……、俺はちゃんと桂ちゃんの事……」 朝音(アオ)は、桂ちゃんを庇ったつもりだったのだ。でも失敗してしまった。 (好きな女の子を傷つけてしまった) 朝音(アオ)は後悔する。  優しい桂ちゃんが気遣って言う。  「いいよ。私、身長が168センチもあるし。女って感じしないから……」  光井が元気に答えた。  「大丈夫だ。俺はちゃんと桂ちゃんが女に見えるぞ! モデルみたいで可愛いと思う」  桂ちゃんが笑う。  光井が飛び跳ねながら言う。  「さぁ、帰ろうぜ」  途中まで3人で帰ったが、光井が抜ける。  「じゃ、俺、あっちだから」  「また明日な」  「おうおう」  光井が跳ねながら去って行く。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加