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尋ね人
それは、ある夏の暑い日の事だった。
その年は、やけに暑い日が続いていて、私は老体にムチを打ちながら、近くにある馴染みの店に、歩いて行くのも一苦労だった。
「ごめんよ。」
私はいつものように、暖簾をくぐった。
「はいはい。」
勢いよく出てきたのは、この店の女将だ。
「なんだい、爺さんかい。」
だが女将は、私の顔を見て、つまらなそうな顔をする。
あまりにも頻繁に、この店にやってくるので、見飽きているのだろう。
「なんだいはないだろう。俺だって客だよ?」
「あら、ごめんなさいね。いつもの癖で。許しておくれ。」
女将は人懐っこい感じで、手を口元にあてた。
ここが、この女将の憎めない憎めないところだ。
「今日は何の用だい?」
女将が、一番手前の椅子を、用意してくれた。
「ああ、まずは冷たいものを用意してくれ。」
「あいよ。」
そう返事をすると女将は、冷たいお茶を持ってきてくれた。
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