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私があの方と、初めてお会いしたのは、まだ私が16歳の頃でした。
先代から続く大きな病院の家で、数人の奉公人を雇っていた真木家に働くようになって、1年目のこと。
優しかった奥様が亡くなり、そのお葬式での事だったんです。
当時まだ 紳太郎さんは11歳。
母親が亡くなった悲しさに、じっと耐えながら、8歳の妹の面倒を見ている、そんなお方でした。
私が、お葬式に来た方達のお世話をするのに、パタパタと廊下を、小走りで歩いていると、庭の片隅で、腕で顔を覆いながら、泣いているあのお方を見かけました。
その前には、奥様が植えたという花畑があって、紳太郎さんは、亡くなったお母様を思い出して、泣いておられたのでしょう。
その時私は、まだ奉公人の中でも下の方で、お子様達に、声を掛けることもできない身分でしたが、私も15歳で親元を離れてきたので、母が恋しいと泣く気持ちも理解でき、一緒に涙を流していたのを、よく覚えています。
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