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2024年1月1日 16時10分 東京都港区
直さん○3歳
みなさん、あけまして…。って、うわぁあああ!地震だぁ!自己紹介とか挨拶とか、してる場合じゃねぇ!と…とりあえず、机の下に…。ってかその前に、今ちょうどお客様との対応中だったんだよ。
え?元旦から、お仕事かって?後で説明するけど、コールセンター界隈では割とよくある事ですよ。比較的ヒマだし、正月手当は入るしで美味しいんです。お客様に、後でかけ直す事を約束して切電…。ってかむしろ、先方でも揺れてたみたい。呑気に電話を続けてないで、さっさと避難なさって下さいね。
この地震発生時の対応マニュアル、まさか実際に使う事があるとは思わなんだなぁ…。そして小学生の避難訓練よろしく、机の下に隠れる機会も。だって、仕方ないじゃない。頭上では蛍光灯がカタカタ鳴ってて、いつ落ちるか割れるか不安だし。
…あ。初っ端から、慌ただしい事でごめんなさい。改めて、この作品の「独白」担当である辻村直と申します。年齢?世界一可愛い声優の、○村ゆかりさん17歳よりは年下ですよ。この自己紹介も、何だかガチで久しぶりだなぁ。
初めましての方は、初めまして。そうでない方は、あけましておめでとうございます。今年度も、どうぞよろしくお願い致します。なにぶん緊急時なもので、机の下からで失礼しますね。
大阪市は放出の出身ですが、大学入学をもって上京。以降、さまざまな職を経て現在のコールセンターに落ち着いております。客…お客様に時々ぴちがいな方がいらっしゃる事を除けば、居心地のいい職場ですよ。
ってな事を言ってる間に、ずいぶんと揺れも収まってきました。どこが震源地か知りませんが、おそらく東京での震度は大きくなかったと思われます。ただ、なにぶん職場が高層階にあるもので…。揺れを、分散させるためですかね?船を漕いでるみたいな緩やかな揺れが続いて、これはこれで気分が悪くなってきました。
思い出すなぁ。去る東日本大震災の時も、建物の中にいて…。っていうか、エレベーターの中にいて閉じ込められたんだっけ。エレベーターと言えば、この職場に来てからも軽い地震があって閉じ込められた事があるわ。何だろう。そう言う、運命の巡り合わせなのかな。もちろん、被災された方々を思えば大した事ではないのだけれど…。
揺れが完全に収まったので、約束どおり先ほどのお客様に架電して(めっちゃ、向こうの方から心配されました)。何やかんやで、遅めの昼休みを取れたのがやっと18時。言い忘れてましたけど、毎日ほぼほぼ14時〜22時の遅番シフトなんですよ。
エレベーターは動いていたようですが、先ほどの揺れで食欲も失せていたので…。休憩室で、適当にお菓子でも食べておく事にしました。どうせ、正月なんで辺りの飲食店も混んでたでしょう。
震源地は、石川県の能登地方だったようですね。被害状況は不明ですが、流石に東日本大震災や阪神大震災クラスではなかったと思われます。スマホを見ると、あんのじょう実家の母親と梨花姉ちゃんからLIMEが届いていました。大阪は揺れるには揺れたけど、大した被害も無かったそうで一安心です。いや、それは良かったんですけど…。
群馬に住んでいる甥の桜くんから、「通話:146件 LIME:265件」の表示が。マジかよ。どんだけ、心配されてんだ。そう言や、東日本大震災の時もこんなんだったような…。これは、早急に返事せずばなりますまいね。と思って、電話をかけたところ2秒くらいで繋がりました。地震のため、病院の患者さん達の様子を見に来ていたそうです。
あぁ、これも言い忘れてました。彼の実家は、地元の高崎市ではちょいと有名な個人病院なんですよ。彼も医師免許を取得して、頼れる若先生として括約…。もとい、活躍しているのだそうで。甥がスパダリで、叔父としては鼻が高い限りですね。年齢は、俺より○3歳年下の30歳…。ってこれ、逆算して俺の歳もバレるパターンじゃない?ともあれ、群馬ではそこまでの揺れではなかったそうです。
「そっかぁ。それを聞いて、安心したよ。群馬のみんな、無事だったかと思って…。沙都子姉ちゃんとか、雪兎くんとか」
「母さんは、ちょうど台所で調理をしていたんですよね。火の元を消すのに、ちょっと焦ったそうです。雪兎なんざ、『BL本を見ていて気づかなかった』とか寝ぼけた事をぬかしてましたよ」
「あはは、雪兎くんらしい!いやでも、マジで安心したよ。今年は実家にも帰らなかったけど、久々にそっち行きたくなったなぁ」
「ところで、どうして雪兎なんです?」
「はい?」
「いや、真っ先に雪兎の名前が出たじゃないですか。弟が三人もいるうちの、どうして雪兎なんだろう…。って、気になっちゃいまして」
「は?そこに、食いつきます?そんなの、大した理由はないよ。四兄弟の末っ子だから、たまたま名前が出ただけって感じ?」
「そうですか。叔父さんにとって、雪兎が一番の『推し』なのかなぁ…。なんて、柄にもなく嫉妬しそうでした」
「叔父さんじゃなくて、『直さん』か『お兄さん』な!前々から、言ってるけど。ってか、『推し』なんて言葉どこで覚えたの。患者さんあたりから、聞いた?ごめん、もっと話してたいけど…。そろそろ、休憩時間終わっちゃうわ。今度から、何百件も着信残すのやめてよねマジで。でも…心配してくれてたみたいで、嬉しかったよ」
「そりゃ、そうですよ。直さんに、もしもの事があったら…。俺、生きていけませんから」
「うわぁ、重っ(笑)」
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