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19.「アスター、お前俺の事好きだろ」
「アスター、お前俺の事好きだろ」
そろそろ寝る準備を始めようかという時、プテリスは真剣な顔でアスターに言った。何を言い出したのか、とプテリスの顔を見る。冗談を言っているわけではなさそうだ。アスターの答えとしては、「ご主人様であるのだからもちろん嫌いではない」というのが正直なところだ。まあそもそも、アンドロイドに好き嫌いを尋ねるのが妙な話だと思うが。
「はい。好ましく思っていますが」
「いや、そういうことじゃない」
「?……好き、とは敬愛の事では無いのですか?」
アスターはコテンッと首を傾げ、プテリスに問う。アスターが主人に対していだく好きに敬愛以上の何があるのか。プテリスは少し考えてから口を開いた。
「どっちかって言うと恋愛だな。外に興味があんま向いてねえだろ。しかもあんま苦痛に思っちゃいないだろ」
プテリスの言葉がゆっくりと体にしみていく。恋愛。特定の人に特別の愛情を感じて恋い慕う事。プテリスがアスターにとって特別なのは当然だ。だってアスターの主人なのだから。しかし、そうだというならなぜアスターは今こんなにも意向を巡らせているのだろうか。頭の中でぐるぐると考えていくうち、機械の体がヒートしていくのを感じる。どこからかキューッと甲高い音が聞こえ、ボフンッと首と体の接側部分から煙が出た。
「ア……えっと、ど、どうして?」
言葉が震える。体が思うように動かない。どこか故障したのかもしれない。なのに、プテリスはとても愉快なものを見る目をしている。
「写真は口ほどにものを言うってな」
ひらりと一枚の写真をプテリスが掴む。それは今日、アスターが撮ったプテリスの写真だった。写真には下手くそな笑顔を浮かべたプテリスがいた。カメラは確かにその男だけに向いていて、他の物など目に入っていないということが顕著に伝わってくる。
「……っ!」
「おっと」
写真を奪い取ろうと手を伸ばすがひょいとかわされる。思わず睨んでしまったが、プテリスは鼻で笑うだけだった。
「おかしいです。こんなの変です。僕はアンドロイドなのに。機械なのに。こんな、まるで人間のような……」
「それがお前なんだろ」
以前にも言われたその言葉。アンドロイドとか人間とかは関係なく、ただアスターそのものを受け入れるという言葉。
(ああ、だから僕はこの人を……)
胸のあたりがキュッと締め付けられる。体の奥から何かが出てきそうな気がした。これを一人で抱えていたくなくて、縋りつくようにプテリスの服を掴んだ。
「仮に、僕がそうだとして、プテリスはどうなんですか」
「どうって……」
「恋愛とは、特定の人に愛情を感じて恋い慕う事。また、互いにそのような感情を持つこと。つまり、互いに同じような感情を持たないと恋愛は成り立ちません」
つらつらと言葉を並べながら、開き直る、とはこういうことを言うのだろうと頭の隅で思った。プテリスがちゃんとした答えを出してくれるまで絶対に引き下がらない。そう決意して拳に力を込めた。
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