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「そんな、また、はぐらかすんですか?」
「いいね、疑っていて。流石に言う事を聞くだけのやつを好きになる事はねぇからな」
肩をすくめる姿は子供の信用を勝ち取る気などこれっぽっちも無い。ただの意地悪で利己の楽しさを優先させた、悪い大人の姿だ。まだ感情の未熟さが目立つアスターにとっては、理解に苦しむ反応であるし、答えを濁されるというのはあまりにも効率が悪い行為であると感じた。プテリスはアスターのそんな様子を気にも留めず、左手でするりとアスターの手を包み込んだ。
「アスターにとって俺の温度は嫌か?」
どういう意味か、とアスターは視線を上げる。細いたれ目のせいで眠りかけているように見えるが、目元の皺が笑みとして深く刻まれていた。
「恋愛とかは、同じようなものか極端に対のやつを求めがちって言うんだ。自分と似ている、という共感。もしくは、自分に無いからこそのあこがれや補間から。そして俺とお前はどうやったって体のつくりが違う。違う質感ってのは、感じ取った時に大体異常を知らせるもんだと思うが、今のお前は、起きてる事は一日受け入れられるとして、異常なものに手を握られている事は嫌だと思うか?受け入れられるか?」
結局また質問、と不満が口から出ようとする衝動性の中でも、プテリスの言葉を理解しようと頭は処理をしていく。プテリスの言う通り、人間に触れられるのはそれ相応の事態であることが多い。何故なら人間は人間同士で肉体的な接触を行う。決して性的なものじゃないにしても、日常のコミュニケーションは触れずとも指示を送れる機械にする必要は皆無だろう。
プテリスが手をつなぐこと自体は、決して今だけの話しでもないし彼への信頼もあるため問題はない。ただ、改めて言われると、護衛機能を持ったアンドロイドが武器を持つための手を塞がれているという状況は、緊迫した状況と紙一重である。他人だったら絶対にさせないし、されたとしても抵抗するし嫌に思うと答えが杭のように思考という平原に突き刺さった。他人は絶対嫌だと思うのはアンドロイドとして正しいのかもわからない。
だが、だからこそ思うのは、プテリスが今つないでいる手は、何も抵抗する気が起きない事だった。主人であるからだとか、決して今回突然行われたわけではないということもあるだろう。しかし彼の温度は、人間としての粗っぽさの目立つ皮膚は、くすぐったいように思いはしても嫌な気持ちは湧いてこない。
「他の人なら嫌です。行動がとりづらいので。ですが、ご主人様なら平気です。不快感は訪れません」
そうか、と頷いてからゆるりと手が離れていく。日照りで氷が溶けていくように遠のく温度を、ひどく名残惜しく目で追いかけてしまう。
「感情的になってきたお前に、主従みたいな関係性は向いてねぇな」
普段通りにどこか鼻で笑うような気配を見せながら言われ、アスターはやや目線を落とす。本来の役割、自分の存在が否定されたようなものだからだ。
しかし絶対に悪い事でもないと、緑が広がったような心は穏やかに空を向く。合わせるように、アスターはプテリスの顔を見て問いかけた。
「ご主人様は、僕と一緒の時間をずっと過ごしていくのは苦痛ですか?」
「いや?アスターであれば、今んとこロ何にも問題はねぇな。むしろ望ましいくらいだ」
こぼれ出たような微笑は、悪さと老いが滲んでいたはずなのに、先よりもずっと優しくてほのかに明るかった。豆電球のオレンジ色が愛おしいのに、暗闇の中ではちょっぴりまぶしすぎるからと瞬きをするような、自分と光以外は暗闇という特別な気配に近しいものがある。
「じゃあ好きって言ってみてくださいよ」
「お前言っちゃいないだろ」
「屁理屈です。またそうやって逃げるんですか」
背伸びをし、ぐいと顔を近づけながら睨みつけるが、子供の大きな目のせいであまり怖くは無いのだろう。ツボにでも入ったかのようにクツクツ笑っては、頭を粗雑に撫でてやった。くしゃりと髪の毛を乱すようなやり方で、愛おしさというよりは子供をあやすかのようとも受け取れる。不満が表情にすんなり現れていたせいか、すぐに手を放してはまた一笑してから、改めて目を見て口角を上げた。
「俺はアスターが好きだぞ。どうだ?もうちょい俺と一緒にいてくれるか?」
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