君は覚えているだろうか?

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 幼稚園に通っていた頃の話だ。  細かいところまでは思い出せないのだけど、前日に雪が降り、その出来事があった日の天気は曇りだったような気がする。園内に雪が浅く積もっていた。  次々に僕の体へと当たる、ぎゅうぎゅうに丸められた雪。「もっと投げろ!」と指示を出す男の子。男の子の指示に従う仲間の男の子たち。彼らの攻撃に無言のまま耐える僕。 そして、「やめなさーい!」と男の子たちに体当たりしながら助けてくれた女の子。サラッとした長い髪とクリっとした目が印象的だ。 「大丈夫?」  女の子が、男の子たちが走り去った後、僕に向かって優しく微笑む。 「うん。大丈夫」  僕は強がって嘘をつく。たぶん、女の子の笑顔が嘘をつかせたのだと思う。  女の子は僕の顔をじーっと見つめる。そして、「あ、それ嘘だ」怒った表情をして、「嘘をついたらいーけないんだ」と笑い、さっきの男の子たちの方へ「逃げるなー!」と駆けていく。 「お名前はー?」  僕は、ユリカに戻ってきてほしくて叫んだ。  すると、ユリカはピタッと止まり、僕の方へ振り返り、「ユリカだ。山田ユリカ。どこかで、また会おう!」と高々と右拳を上げて、笑った。  ユリカは右拳を前に突き出しながら、再び男の子たちのいる所へと雪の上をザクザク音を立てながら駆けていく。  なんてカッコいいんだ! その瞬間、僕は恋に落ちた。   それからユリカと仲良くなり、「翔太」「ユリカ」と呼び合い、何度も一緒に遊んだけれども、ある程度具体的に思い出せるのは、ユリカが高々と右拳を上げた日の記憶だけだ。卒園して以来、ユリカとは会っていないし、思い出すこともなかった。  中学校の入学式の日までは。  
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