君は覚えているだろうか?

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 学校の前の道路に立っていた教師の指示に従い、緊張しながら正門を通った。  少し前で賑やかに会話をしている新入生たちの流れに乗って、校舎の入口まで歩く。入口のドアに張り紙が貼ってあって、そこで自分のクラスを確認した。僕は、1年2組だ。2組のメンバーを確認すると、同じ小学校に通っていた仲の良い友達の名前が何人も載っていて嬉しくなる。  上履きに履き替えると廊下の奥の方から賑やかな声が聞こえてきて、期待感と緊張感が高まった。  教室に向かう途中、何人ものガラの悪い先輩たちとすれ違い怖くなる。ああ、やっぱり噂通りなんだと不安になる。この中学校は不良が多いことで有名なのだ。  きっと気の弱い僕はカモにされるのだろうな、と怯えながら歩いていると「ねえ、君。何組?」と後ろから新入生の女子に話しかけられた。話しかけてきたわりに妙におどおどしているのが少し不思議だ。肩まで伸ばした髪、それとクリっとした目をしている。 「2組」  つい、素っ気ない言い方になる。小学校時代に女の子とあまり喋ってこなかったから、どうしても緊張してしまうのだ。 「じゃあ、私と同じクラスだ。あの、迷惑じゃなかったら……一緒に行こうよ。一人で教室に入るのは緊張するの。あ、私の名前、山田ユリカっていいます。よろしくね」 「あー、同じクラスか。よろしく。それで、あの、名前は?」  僕は聞き間違いだと思い、確認のため訊いた。 「いや、だから……」とユリカは一瞬口ごもり、「山田ユリカです。あの私、友達いないから……たまにでいいから喋ってくれると嬉しいな。……あ、ごめん! で、できればで。いいから」と慌てながら微笑んで、僕から目を逸らした。  遠い記憶が蘇る。目の前の、この女の子が、あのユリカなのか? まさか……本当に?     僕は記憶の中を探る。すると、少し前に母が「中学生になったら、幼稚園のときに仲の良かった瞬くんとか、ユリカちゃんとか、蓮司くんとかと一緒になるわね。アンタ、友達少ないんだから仲良くなっときなさい」と心配そうに言っていたのを思い出した。  友達がいないって? 一人も? なぜだろう?   記憶の中で元気いっぱいに駆け回る、パワフルなユリカとのイメージの違いに僕は戸惑った。 「ユリカだ。どこかで、また会おう!」と高々と右拳を上げて笑った、あの女の子との再会に、疑問混じりの嬉しさを感じた。 「ねえ、あなたの名前はなんていうの?」 「佐藤翔太」 「佐藤翔太、君か。じゃあ、行こうか。佐藤くん」  と、そこでユリカが、僕の名前を初めて聞いたようなリアクションをしたから僕も合わせて初対面のふりをした。   「うん」  僕は無言のままユリカの隣を歩き、2組の教室に入った。    
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