君は覚えているだろうか?

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 教室内は賑やかだった。黒板に座席表が貼ってあり、僕とユリカは自分の席を確認してから、それぞれの席に座る。    積極的に話しかける人、様子を伺っている人、話しかけるなという雰囲気を醸し出している人。一人一人が独自のスタイルでコミュニケーション、距離感を取っている。3つの出身小学校から集まった生徒たちが混じり合う教室は新鮮で、爽やかな空間だった。  僕は、様子を伺いつつ徐々に距離を詰めていくタイプなので新しい友達を作るのに苦労するかと心配していた。が、意外にも、近くの席に座っていた和歌山くんとすぐに友達になることができた。 「ねえ、もう彼女できたの? やるじゃん」と話しかけてきてくれた和歌山くんのお陰なのだけど。  和歌山くんは、短髪で背が高く、爽やかなイケメンだ。いかにも女子にモテそうな外見をしている。地味な外見の僕が和歌山くんと話をしているのは不自然なように感じた。  和歌山くんがユリカの方をチラチラ見ながら小声で話すので、僕も和歌山くんに合わせて声の大きさに注意しながら会話をする。   「いや、彼女いないけど。いない、いないって」  僕は、「彼女」という響きが何だか恥ずかしくて必死に否定した。 「さっき、一緒に入ってきたじゃん」 「たまたま靴箱のところで一緒になったんだ。話してみたら同じクラスだってことがわかったから、そのまま一緒に来ただけだよ」  すると、和歌山くんは「知ってる」と意味ありげに笑った。 「なに? その笑いは?」 「ごめん。ちょっと、からかってみただけだよ」 「え? どういうこと?」 「俺、山田と同じ小学校に行ってたんだ。佐藤くん、あいつと付き合おうと思うのは、止めたほうがいいよ。というか、話すのもやめた方がいいかも。可愛い外見に騙されちゃ駄目だ」 「山田さんって何か問題あるの?」  「ああ、実はね」と和歌山くんが言ったところで担任の先生が「おお、新入生たち賑やかだな。はい、みんな着席!」と教室に入ってきたので会話が中断した。  若々しい担任の小林瑛太先生からの挨拶と自己紹介が終わると、廊下側の一番前の席から順番にクラスメイトの簡単な自己紹介が始まった。  僕は小声で、名前と趣味が読書だということを話した。が、小林先生に「佐藤くん、声が小さくて全然聞こえないぞ!」と指摘され、もう一度自己紹介するはめになった。 「佐藤くん、2回も自己紹介できてラッキーだな」  和歌山くんが僕を冷やかすと、笑いが起きた。―きっと、この男はクラスの中心的な存在になるのだろう。冷やかされながらも、自分の友人がクラスの有力者になるかもしれない未来を妄想して、嬉しくなった。  そして、ユリカが自己紹介する番になった。 「山田ユリカです。私は―」と話し始めたところで、教室内の空気が一変した。暖かかった空気が、一気に冷たくなったのだ。  何人かの女子生徒が舌打ちしたり、「ウザっ」「相変わらずキモい声」などの悪口を言い始める。おそらく、ユリカと同じ小学校に通っていた人たちだろう。 「おい! 誰だ今言ったのは?」  すかさず、小林先生が悪口を言った人たちを探そうとする。しかし、正直に名乗り出る人は誰もいなかった。  和歌山くんの方を見ると、冷めた目でユリカの方を見ている。  ユリカは、ずっと俯いたままだ。なぜ、こんなにも嫌われているのだろうか?  結局、入学式が始まる時間が迫ってきたため、悪口を言った犯人探しは終わりになってしまった。  教室内は暗く、冷たく、重い空気が充満していて、ユリカが嫌われている原因に触れてはいけないような気がしたから、僕は知りたい欲求を抑えた。  最悪な気分で中学校生活がスタートした。     
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