◆第一章① レイリアとブラダ

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◆第一章① レイリアとブラダ

 蒼碧色の美しい瞳が望遠鏡を覗き込んでいた。  雪のように純白に輝く髪色で、透き通るように薄く白い肌の、少し耳が尖った美少女・レイリアは、村で一番見晴らしの良い教会の塔の屋根の上に登り、白いショートパンツを履いた小ぶりなお尻を突き出して望遠鏡を覗き込んでいた。  美しい雪白色の髪の内側は蒼みがかっていて、顔を包み込む程度の長さだ。    ジーレンベルトには6つの月がある。  この日、見晴らしは良かったが、昼の空に浮かんで見えたのは5つだけだった。  地球の月と同程度の月と、より大きな蒼碧色と緋色の月が、それぞれ半月となって空に浮かんでいる。さらに、南西と南東の方角に沈み込むような大きな月が2つ見える。    ここはジーレンベルトのとある山奥にあるハイマー村。人口170人程度の小さな村だ。  ハイマー村は断崖絶壁の高地に造られた村。断崖絶壁に建物が並ぶ〈谷間の断崖のエリア〉と、〈上層の台地のエリア〉で分かれていて、地理的には天然の要害である。  上層の台地のエリアは緩やかな斜面と段丘になっていて、中央には川が流れ、名物の巨大な水車がある。断崖には滝があり、谷底の川は、近くの『ハイマー湖』に注いでいる。  ハイマー湖は幅が約10~15キロメートル程度で、ハート型のような形の湖だ。湖の中心付近には小さな島がある。  最も高い位置には、教会がある。教会は大きな岩山の一部がくり抜かれて建設され、学校が併設されている。教会は、元々は大昔の雷神を祀る神殿だったと伝えられている。  教会からの景色はまさに絶景である。   「ねぇ、ブラダ! 見て! ほら!」  「なぁにぃ?」  直下の部屋の窓から、色の濃い金髪でレイリアより背が高いブラダがレイリアを見上げて応えた。ブラダは清楚な印象の民族衣装を着ている。 「ほら、三日月遺跡の奥の『姉妹山』の間の浮遊岩! すっごく大きいよ‼」    レイリアが覗き込む望遠鏡からは、ハイマー湖を挟んで北東に【三日月遺跡】と呼ばれる〈古代遺跡〉が見えた。その名の通り、三日月型の巨大なオブジェが建造された遺跡である。元々は正円だったと伝えられている。  その奥には、不思議な形の岩山が見える。【姉妹山】と呼ばれる二又に分かれた(おう)型の岩山で、(へこ)みの部分に巨大な【浮遊岩】が浮かんでいる。手前にはハイマー湖とその周辺の渓谷も見え、小さな浮遊岩が浮かぶ場所も見えている。  浮遊岩というのは、その名の通り、〈浮遊する岩〉である。ジーレンベルトの大地には、不思議な『魔法の力』がある上に、地球と違って大地の持つ重力が不安定なため、岩が浮くエリアがあるのだ。    ブラダは掌をひさしのようにして、遠くを見て質問する。 「う~ん? そんなにおっきい浮遊岩、前からあったっけ? 山の形、変わった?」 「こないだの地震で落ちたんだよ! でも落ちそうで落ちない……。あの辺りはかなり重力が不安定なんじゃないかな? 近くまで行って見てみない?」 「え?……危ないし、パパに怒られるよ?」  ブラダは怪訝そうに言う。それにレイリアがあっけらかんと応える。 「いいの! ジョナスおじさんの許可なんて必要ないよ! ボク、もう大人だよ? 強い魔法も覚えたし、ボク達だけでも余裕余裕!」 「大人って……レイリアはハーフエルフだから、肉体年齢はまだ14歳でしょ! まだまだ子供じゃん……」 「……う、うるさいなーっ。妹のくせに生意気言うな!」  レイリアはムキになって反論した。 「あたしもう17歳だもん。身体はレイリアより、オ・ト・ナ」  ブラダは豊満な胸をチラッと見せてレイリアをからかった。 「うっ……」  レイリアは悔しがった。  レイリアの横には、ペットの魔法生物、アルルがいる。  アルルは、レモンイエローの毛皮に、付け根で毛がくるんと巻いたキューピッドの羽根のような耳にくるんとした尻尾、子パンダのような丸い体に、目に紅みがある子犬、もしくはハムスター、あるいはウーパールーパーのようなかわいい顔をしている。腹部にはハート型のピンクの模様がある。 「く〜ん」  アルルがレイリアを慰めるように身体を密着させた。 (もう、いつまでも心が子供のまんまなんだから……)  ブラダは呆れ返っている。    レイリアは【ハーフエルフ】と謂われる存在だ。  そのため、実年齢は28歳だが、寿命が人間の倍で、成長速度が人間の半分の速度なので、肉体年齢は人間で言えば14歳である。    レイリアは少し不貞腐れながらアルルを撫でた。  そして、ふと南の空を見た。南西と南東の方角に、大きな月が2つ見える。  南西の月は、【ルナ・フォルテ】と呼ばれ、蒼碧色と緋色の月より2回りほど大きく、色は白に近い。土星のように輪を持つが、並行する二重の破線に見える。  南東の月は、さらに何倍もの大きさだ。【巨月のオヴム】と呼ばれ、まるで木星のように渦巻いており、気が付けば色が変わるような不思議な月だ。  巨月のオヴムは、手を伸ばして20~30cmの球体を持ち上げたような大きさだ。  もう1つ、【スヴァルト・マーニ】だけは見えなかったが、むしろこの月は見える事の方が珍しい。    ブラダがレイリアに聞く。 「ハーディーは呼ぶ?」 「な、何でハーディー⁉ やめてよっ! どうせ昼間っから飲んだくれて女のケツ追いかけてるんだから!」  レイリアはムキになって怒った。 「まだ怒ってるの?」 「怒ってるとかそういうんじゃなくて……とにかく良いってば! ハーディーの事は!」  レイリアは少し不貞腐れる。 「はいはい。わかった。じゃあ今度行ってみよ」 「うん!」 (よし、これで三日月遺跡にいく口実ができたぞ~!)  レイリアが本当に行きたいのは三日月遺跡だった。  普段、ブラダの父親で、レイリアの養父でもあるジョナスからは「絶対に行っちゃダメだぞ!」と厳しく言いつけられていた。  しかし、レイリアにはどうしても三日月遺跡に行きたい理由があった。
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