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9.
いずれ真実は明かされるとわかっていたが黙っている自分を許せなくなった。堂々と胸を張って生きていたい。善行は清水にすべてを話したのだった。
真犯人は善行たちとは関わりのない別の部署の男だった。女性社員が結託して突き止めたのだ。
しばらくして善行がいつものようにひとり机で昼の休憩をとっていると出かけていたはずの清水が戻ってきた。
「平本……さん、色々ありがとう。助かったよ」
「いえ当然のことをしたまでです。勝手に家までついて行ってすみませんでした」
「僕はあなたのことを誤解していたみたいだ。申し訳ない、今までの失礼を許してください」
「誤解とはどういったことでしょう」
「いつも片手をポケットに入れて虚ろな表情をしている態度の悪い人間だと思っていた」
そうか、それが原因だったのか。理由もなく嫌われていたわけではなかったのか。少しだけ安心した。
「お守りを持っているんです」
「そうか、お守りか。僕も妻の身体が少しでもよくなるようお守りを持ってるんだよ。そうか同類だったんだな」
善行は自分に向けられた清水の笑顔をはじめて見た。ランチから戻った原田がふたりを見つけて驚いた顔をしている。もう「平社員の平本」だなんて呼ばないだろう。善行は可笑しくなった。
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