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10.
休日もう一度実家に帰ってみようと思った。母もきっとそれを願っている。父とあの女性と3人で墓参りにも行こう。
晴れた日曜日、電車で2時間かけて実家へと向かった。季節を感じる余裕などない生活をしていたことにふと気づく。秋も終わりかけていた。家の近所の歩道橋に上がり澄んだ空気を肌に感じながら懐かしい町を見渡す。黄金色のイチョウ並木が遠くまで続いている。ポケットから金の折り鶴を取り出し薄紫の紐を持ち陽にかざしてみた。降り注ぐ暖かな太陽のように母が笑っている。そんな気がした。
少し離れた横断歩道を白杖の老婦人が渡ろうとしている姿が見えた。気をとられている善行の手から金の鶴が羽ばたいた。一瞬空を舞い上がり落ちていく。あっと声をあげて見下ろすと母は大型トラックの屋根の上で輝いていた。旅立つんだよと善行の背中を押す。トラックはどんどん小さくなりやがて見えなくなった。善行は歩道橋を降りて白杖の老婦人のもとへと走っていた。
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