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 地下鉄の階段を降りながら善行はスーツの右側のポケットに手を入れる。酒癖の悪い清水でもさすがに本当に吐くまではしなかった。もしやられていたらきっとこの手はヤツの左頬を殴っていただろう。ポケットの奥には母の形見の根付がある。金の折り鶴に込められた願いは叶うことなく母は病に倒れたまま逝ってしまった。もう幾度もそうしているようにポケットの中で薄紫の紐を指に絡ませる。冷静になるんだ。冷静に。
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