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  母の七回忌の法要で実家に帰った。有給休暇を申請したくなかったのでカレンダーどおりの休日にできないものかと父に頼んだ。久しぶりに会った父は小さな老人になっていた。子供の頃に感じた大きくて温かなぬくもりのある身体はどこにもない。別人だったのかとさえ思う。  寺から戻り家に入ると微かに期待していた懐かしい匂いとは明らかに違う何かを感じた。 「ヨシユキちょっと話があるんだ」  玄関で先に靴を脱いでふり向くとためらいがちに父は言った。奥から小柄な女性が出てきた。父より少しだけ若く見えるその女性は母とまったく似ていなかった。 「そっか……うん。そうだよね」  勝手に察して頷く。父もひとりは寂しかったのだろう。 「松村恵子さん、1年前にシルバーの職場で知り合ったんだ」 「はじめまして」  女性は少しかすれた弱々しい声で挨拶をしてぎこちなく微笑んだ。 「ヨシユキ今夜は泊まっていくだろう。恵子さんの手料理食べながら飲むか」  突如、善行は震え出す。怒り? 悲しみ? 諦め? それらのいずれでもなかった。元気だった頃の母の顔がその女性の姿に重なる。「今夜はヨシユキの好きなエビフライだよ」と笑う。涙でかすんで目の前がぼやける。慌ててふたりに背を向けた。 「仕事が忙しくてさ、さっき上司から電話があったんだ。帰ってやらなくちゃならないことあるからさ」  黒いスーツの右ポケットに手を入れると硬い折り鶴の羽に触れた。 「だからごめん、帰るよ」 「お茶くらいしていけよ」との父の声を聞こえないふりして静かに玄関を出て歩き出した。もうこの家に帰ることはないだろうと思いながら。
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