2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
──シャッ、シャッ。
紙の上を走る鉛筆の音。それが私にとっての子守唄だった。
「うぅ〜」
「……おはよう、彩花」
その音は口数の少ない父の声よりも、よく聞いた音だったかもしれない。
「おとうさん、なにかいてるの?」
私が父の持つスケッチブックを覗き込むと、涎を垂らしながら寝ている自分の姿が描かれていた。
「もう、かってにかかないでよ!」
「ごめん、でも気持ちよさそうだったから」
「だったらわたしも、おとうさんをかく!」
そう言って私は父のスケッチブックを奪うと、クレヨンを片手に父の顔を描き始める。
これが数少ない父との最後の思い出だった。
最初のコメントを投稿しよう!