散華

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 あの日、執権北条義時の命で討たれた公暁の首を、義村は降り積もる雪の中、長い間抱きしめて離さないまま、泣き続けた。  善哉君。  私の愛しい若君。 「次男ではあるが、将軍家の男子として厳しく育てよ」  あなたの実のお父君は、そう言って私に小さなあなたを託されました。  まだ赤子の域を出ない、足元のおぼつかないあなたが、盛大なしりもちをついてひっくり返り、大声を上げて泣く姿を見ては、父君はいつも「泣き虫め!さっさと一人で起き上がらぬか!」そう言って叱咤されておられました。  幼いあなたは、父君の前で目に涙をいっぱいためて、流れ落ちようとするそれを必死でこらえながら父君の期待に応えようと立ち上がっておられました。  その姿があまりに不憫でたまらず。  私は、父君がおられない時には、そのお言いつけに背いて、幼いあなたが転んで泣くたびに駆け寄っていっては抱き起しておりましたね。  そのうち、転んでも自然にあなたは泣かなくなられ、私が抱きしめて差し上げる必要もなくなりました。  けれども、私は大きくなってあなたが私の前で泣かなくなったとしても、もっともっとあなたを抱きしめてさしあげるべきだった、その手を離すべきではなかったのです。
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