散華

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 仏のように澄んだ生前の実朝の瞳が思い出される。 「もう、許してやろう。小四郎叔父。そして、叔父御も自分を許して、こちらへ来るといい」  義時は、浄土の実朝がそう言った気がした。  だが、義時は、義時が公暁と義時自身を許さないことで、義時自らが地獄に落ちることになろうとも、それでもよい、例え実朝が許したとしても自分は決して許すまいと思った。 「謀反人の分際で、死してなお、叔父君に甘えようとは!」 「執権殿は右大臣様の親代わりだったといってもいい。若君にとっての右大臣様もそうなのです。人は皆、仏の愛し子といいます。子が親に甘えてはならぬ道理はありますまい」 「右大臣様は賢く、心の強いお方だった。何も語らずとも全てを理解して受け止めて、その痛みにひとり耐えておられた。詮無いことだが、貴殿の養い子はどうしてそれができなんだのか」  苦渋の表情の義時の瞳から涙がこぼれた。  その年の秋、義時は静かに逝った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加