貴方と俺で

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貴方と俺で

高校生・溺愛攻め・美形×平凡 琉惺先輩(攻め)に溺愛される瑛紀(受け)です。 ***** 「瑛紀(えいき)、あーん」 「……」 「口を開けろ」 「……」 この人はすぐに俺に食べさせたがる。 自分が食べる分がなくなろうと俺に食べさせたがる。 でも俺だって弁当がある。 そんなに腹に入らない。 「瑛紀の卵焼き、うまそうだな」 「食べますか?」 「いいのか?」 「どうぞ」 弁当箱に移してあげるとちょっと不満そうにする。 「俺は食べさせてやったのに、瑛紀は食べさせてくれないのか?」 「……」 「瑛紀、どうなんだ」 「…琉惺(りゅうせい)先輩…」 どうなんだって。 でもこれが始まると長いから、仕方なく卵焼きを口元に差し出す。 先輩は嬉しそうに卵焼きを食べる。 端正な顔立ちで、少し冷たい印象も受ける切れ長の目元が特徴の琉惺先輩が、嬉しい時に微笑む笑顔は可愛い事を知っている人はどれくらいいるだろう。 学校内でそれを見られる数少ない人の中のひとりは自分だと思うと、悔しいけど心臓が弾む。 「あ、あの、結城(ゆうき)会長…すみません、議事録の…」 琉惺先輩に話しかける、俺と同じ学年で書記を務める女子生徒。 俺と琉惺先輩が弁当を食べているのはいつも生徒会室。 生徒会長を務める琉惺先輩は責任感が強く、忙しい。 そしてちょっと厳しい。 「それは違う。前にも言っただろう、これは…」 仕事をする姿はかっこよくて、イケメンだからじゃなくて、仕事ぶりとか生徒達への接し方などを見てもとても凛々しくて、みんなが憧れる先輩。 でも。 「瑛紀、続きだ。あーん」 「……」 なぜか俺相手だとこうなる。 おずおずと口を開くとやっぱり可愛く笑う。 嬉しいんだなって思うと、俺も心がほっこりする。 弁当を食べ終えて、俺は静かに椅子に座って琉惺先輩が生徒会の仕事をするのをただ眺める。 もういつもの事なので、誰も『なんで本村(もとむら)くんが?』って顔なんてしない。 むしろいないほうがおかしいくらいになっているだろう。 かっこいい琉惺先輩がなんで俺を選んだのか。 それは俺にもわからない。 俺は特段目立つ見た目をしているわけではない。 普通とか平凡とか地味って単語が制服着て男子高校生してるっていうのが俺。 入学式の日に廊下で、急いでいた琉惺先輩とぶつかったのが運の尽き…じゃなくて全ての始まりだった。 『悪い、怪我はないか』 『はい、大丈夫です』 『…名前は?』 『本村、瑛紀です…けど』 『………本村瑛紀……』 そこから毎日琉惺先輩の好き好き好き好き好き好き攻撃が始まった。 最初は嫌がらせかと思った。 でもどうやら本気で俺が好きらしく、付き合ってくれと付き纏われ、頷いた瞬間…いや、頷く前から、とにかく溺愛されて今に至る。 おかげで俺はぼっちだ。 友達を作るタイミングを逃した。 というか、近づいて来てくれた生徒はみんな琉惺先輩の冷たい視線に睨まれて逃げてった。 『俺、友達ができないんですけど』 『俺がいるからいいだろう』 そういう問題かって思ったけど。 『俺は瑛紀を独り占めしたい』 そこまで愛されたらもうなんでも許せてしまった。 もちろん互いの両親には挨拶済み。 俺の両親は『この子で本当にいいなら』と言い、琉惺先輩のご両親には、気難しい息子の扱い方がわからず困っていたから助かったと本気で感謝された。 俺のためならなんでもしてしまうような人。 不思議な人。 可愛い人。 悔しいくらい俺も琉惺先輩が好き。 恥ずかしいから素直になんて言えないけど。 「瑛紀、昼休みが終わるから教室まで送って行く」 まるで強盗の出る道でも通るみたいに、どんなに時間がなくても教室まで必ず送ってくれるくらい心配性。 もちろん学校の行き帰りなんて、俺にひとり歩きは絶対させない。 こんな守られ方したら、女子じゃなくても、心が女の子になってしまう。 背が高くて足の長い先輩。 しかも大股で歩くから、歩くのが少し速い。 先輩はたぶん、誰かと歩くのに慣れてない。 それなのに、いつでも俺と一緒に歩いてくれている。 それだけ一緒にいたいと思ってくれている。 だから俺は早足で歩く。 そうしたらほら、貴方と俺で、同じスピード。 なんとなく琉惺先輩の手を握ったら、振り返って可愛い笑顔を見せてくれた。 END
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