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こんなの夢に決まってる
高校生・幼馴染・美形×平凡
放課後、幼馴染の真永(まなと)が惚気ているのを聞く凛音(りと)。
「凛音も早く彼女作んな? どんな子が好き?」
俺は、真永が好き。
*****
「でさ、あいつすごく可愛くて…」
「へえ、よかったね」
「ああ」
幼馴染の真永が惚気ているのをただ聞くだけ。
真永はいわゆるイケメンで、すごくモテる。
可愛い子にたくさん告白されて、選び放題。
そして選ばれた女子が彼女となり、真永は俺に惚気る。
「凛音も早く彼女作んな? 女の子ってすごく可愛いよ」
「…うん」
彼女、ね。
俺みたいな、平凡の中の平凡とも言えるようなやつと付き合ってくれる子なんていないだろう。
その上、面白味もないし、一緒にいてもつまらないと思う。
しかもすぐ卑屈になるしネガティブだし。
「凛音はどんな子が好き?」
俺は、真永が好き。
それを言ったらこの関係が壊れるから絶対に口にしない。
大切な幼馴染。
いつから好きだったのかは覚えていない。
小さい頃からそばにいて、それが当たり前で。
真永と比べられてからかわれたり、嫌がらせをされたりする度に真永が守ってくれた。
そんな真永がかっこよくて、いつしか俺は真永に組み敷かれる夢を見るようになった。
その度にこれまで感じた事のない昂揚感に包まれて夢精する。
俺は自分が恥ずかしかった。
だから気持ちを秘めておく事にした。
絶対に誰にも知られないように蓋をして心の奥にしまい込んだ。
そのおかげで高二の今も真永と仲良くできている。
真永のそばにいられるなら、気持ちを隠しておくくらいなんでもない。
「凛音?」
「え? あ、うん…俺、特にこれと言った好きなタイプとか、ないから」
「じゃあ絵里の友達とか紹介してもらおうか?」
「いいよ、そんなの」
“絵里”は真永の今の彼女の名前。
真永に言われれば、絵里さんも紹介してくれるだろう。
でもそんな風に紹介されたって困る。
俺が好きなのは真永なんだから他の人と付き合うつもりはないし、それに事あるごとに『真永くんに言われたから付き合ってる』って言われるに決まってる。
ぼんやりと真永のネクタイを見ていると、教室のドアが開いた。
「あ、鴻上いた」
「なに?」
呼ばれた真永が顔を教室の入り口に向けるので、俺もそちらを見る。
そこに立っているのはクラスメイトの藤本伊吹。
「先生に、『鴻上がまだ残ってたら職員室に来るように言ってくれ』って頼まれたんだよ」
「わかった。ごめん凛音、ちょっと行ってくる」
「うん」
真永が教室を出て行って、入れ替わりに藤本が真永の座っていた椅子に座った。
「邪魔しちゃった?」
「別に、ただ話してただけだし」
「鴻上すごいよな。とっかえひっかえ女子と付き合って」
「……」
そういう言い方しないで欲しい。
でも藤本の言う事も間違ってはいないから言い返せない。
真永は、付き合う子をすごく好きになっても突然冷める事が多い。
なにが原因かは聞いた事がない。
そんな真永でも、付き合いたいと告白してくる女子は絶えない。
なんとなく藤本の顔を見る。
真永ほどじゃないけど、整った顔立ち。
爽やか系のイケメン。
真永は王子様みたいなキラキラタイプだけど、それとはまた違う感じ。
「とっかえひっかえの原因、なにか知ってる?」
藤本がちょっと含んだ笑みを見せる。
なんだか気に障る笑い方。
「別にいい」
「樋口だよ」
「俺?」
いいって言ってるのに藤本は勝手に話した。
聞いてしまう俺も俺だ。
「鴻上の元カノ達、みーんな樋口の悪口言った瞬間に振られてる」
「え…」
「すげーよな。彼女より幼馴染をとる鴻上も、それをさせる樋口も」
なんか引っかかる言い方。
「別に俺が真永にそうさせてるわけじゃない」
「でも結果的に鴻上はそうしてる」
「てかなんで藤本がそんな事知ってんの? まさか元カノ達に聞いて回ったわけじゃないだろ? 藤本が知ってるのはおかしくない?」
初めて聞いた話に、なにを言ったらいいかわからなくなってくるけど、とりあえず頭に浮かんだ事をそのまま口にする。
真永が言ったならとにかく、全く関係ない藤本がそんな事を言ったって信憑性がない。
「そう。聞いて回ったんだよ、元カノ達に」
にや、と笑って答える藤本に、背筋に嫌な汗が伝った気がした。
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