こんなの夢に決まってる

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なんでそんな事をしてるんだろう。 「なにが目的?」 「敵を知るのが目的」 「敵?」 「鴻上」 藤本の好きな子が真永を好きとかそういう事だろうか。 「樋口、鴻上の事好きだろ」 「好きだよ。幼馴染だし」 「そういう意味で言ってんじゃないってわかってんだろ」 「……」 隠しきれてなかった? …誰にも知られるわけにはいかない。 なんとしてでもごまかさないと。 下手したら真永にバラされるかもしれない。 そうしたら関係にヒビが入って壊れるかもしれない。 それだけは避けないと。 「じゃあどういう意味?」 「ごまかすの下手だな。目が泳いでる」 「……」 藤本はなにがしたいんだ。 俺と真永の関係を壊したい? なんのために? 「俺にしとけよ」 「は?」 「鴻上なんかやめとけ」 「言ってる意味が全然わかんないんだけど」 「こういう事だよ」 突然藤本が真面目な顔をして、そのまま俺の頬にキスをした。 固まる俺の目を覗き込んで、それから唇を重ねてきた。 「!!」 咄嗟に顔を背けようとする俺の後頭部を押さえて、歯列をなぞった舌が、薄く開いた隙間を狙って滑り込んできた。 「ん、ぅ…!」 舌と呼吸を絡め取られて苦しい。 逃げようとしても逃げられない。 なんで藤本にこんな事されてるんだ、と考えてみても全くわからない。 「凛音!」 聞き慣れた声が教室内に響いた。 顔をそちらに向けようとしたけれど、頭をしっかり押さえられていてできなかった。 でもわかる。 真永が戻って来たんだ。 「藤本、凛音を離せ」 机や椅子がガタガタ音を立ててる。 たぶん真永がぶつかりながらまっすぐ窓際の俺の席に近付いて来ている。 どうしたらいい。 真永を無視して藤本のキスは深くなっていく。 俺の後頭部を掴む手を真永が掴んだのを感じた。 はっとして藤本の唇に噛み付くと、ようやく解放された。 「…へえ」 面白いおもちゃを見つけたような藤本の瞳。 弧を描く唇には血が滲んでいる。 「藤本、凛音になにしてんの?」 「わからないならもう一回してやろうか」 「ふざけんな!」 「真永!」 藤本に掴みかかろうとする真永を止める。 それはさすがにマズい。 「鴻上だって彼女とこういう事してんだろ?」 「なんで凛音に手ぇ出した!?」 「いいだろ、別に。樋口は鴻上のものじゃないんだし」 「……」 真永のこんな怖い顔、見た事ない。 さっき俺に早く彼女作んなって言って笑ってた人と同一人物だとは思えない。 藤本を今にも殴りそうな目で睨みつけている。 「それに樋口も嫌がってなかったけど?」 「なっ!? だったら噛みついたりしないよ!」 藤本に言い返す俺を真永はじっと見ている。 「…凛音、藤本が好きなのか?」 「違うって! キスだって無理矢理…」 「その割に可愛く応えてきたけどな」 「藤本は黙ってて!」 これ以上ごちゃごちゃにしないで欲しい。 でもこの状況を藤本は間違いなく楽しんでいる。 「凛音、彼女作って。女子ならいい。女子が相手なら諦めがつくから」 「は?」 「男はだめだ。いや…男でもいいなら、俺が彼氏になる。だから他の男はだめだ」 「なに言ってんの…真永」 「彼女持ちの男が『俺が彼氏になる』なんて言ってもなー…それって二股って事だろ? 樋口が可哀想」 真永の言っている事がわからない。 藤本は更にわからなくさせる。 それでも心臓の動きはおかしくなる。 脈拍が異常になって、苦しい。 「わかった。絵里とはすぐ別れるから。俺と付き合おう、な? 凛音」 「樋口、さっきも言ったけど俺にしとけ。鴻上みたいに、女子とっかえひっかえしてきた男はやめといたほうがいい」 「え、えと…?」 どういう事? この状況、なに…? 「凛音、俺と付き合ってくれ」 「樋口、俺にしろ」 「……」 どうしたらいいかわからない。 真永の言葉も藤本の言葉も、意味がわからない。 え? え? え? だって俺は平凡の中の平凡とも言えるようなやつで、俺なんかと付き合ってくれる人なんていないはずで。 面白味もないし、一緒にいてもつまらないやつだし、すぐ卑屈になるしネガティブな、こんなやつに『付き合ってくれ』なんて言う人がいるわけない。 しかもそれが真永だなんて、ありえない。 その上もうひとり、『俺にしろ』って言う人がいるとか…。 ―――こんなの夢に決まってる。 END
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