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「ずっと凛音が好きだった。小さい頃から可愛くて一生守ってあげたいって思ってて、ずっとそばにいたかったけど……俺も凛音も男だからそれは無理なんだって知った時はショックだった」
「うん」
ふたりで並んでいつもの道を歩く。
影が重なって、ただそれだけなのに少しどきどきする。
「好きで好きで苦しくて…でも叶わないならせめて幼馴染としてそばにいようって思って…。俺、早く凛音に彼女作って欲しかった。この苦しさから解放されるにはそれしかないって思ってたから。女子が相手なら絶対勝てないから諦めがつく、って」
「そう…」
「俺がずっと彼女作ってたのも、そうしたら凛音も彼女がいるっていいなって思ってくれるかなっていうのが一番の理由だったんだけど…凛音はいつまで経っても全然彼女作らないし、俺は苦しいばっかりで」
そうなんだ。
そういえば彼女がいていいな、なんて一回も思った事ない。
「だって俺が好きなのはずっと真永だけだったから」
「早く言ってくれたらよかったのに」
「言えないよ! 言ったら仲良くしてもらえなくなるって思ってたんだから」
「そっか。そうだよね…」
人の気持ちって難しい。
まさかずっとすれ違ってたなんて思わなかった。
「それでもなんとか付き合った子を好きになろうとして、好きになれるかも、今度こそ凛音の事吹っ切れるかもしれない、この子ならってなっても相手の子に凛音の事悪く言われて頭の中真っ白になって別れるの繰り返してた…。俺、どうやっても凛音の事が好きなんだって思い知らされるばっかりだった」
「嬉しいよ、真永。ありがとう…。俺が原因で彼女と何度も別れてるって聞いた時はびっくりしたけど、そういう事だったんだ」
そっか。
やっぱり本人の口から聞けてよかった。
「…誰から聞いたの?」
「伊吹」
真永が眉を顰める。
「…伊吹の事、傷付けちゃった」
「凛音、なんで藤本の事、名前で呼んでんの?」
「だって抱き締められた時、『名前で呼んでくれたら離す』って言われて…そこにちょうど真永が戻ってきて」
「ああ、そうだったんだ」
真永が笑ってる。
もう笑って話せる事になったのかな。
真永が手を差し出して、手を繋ごうって目をするので手を重ねようとして少し躊躇う。
「……真永は俺が汚いって思わない?」
「え?」
「俺、昨日伊吹にキスされたし、今日だって抱き締められたし…」
「……」
真永は俺をじっと見ている。
なんだか全てを見透かすようなまっすぐな視線でどきどきする。
心の汚れまで全部見られてしまいそう。
……俺がずっと夢で真永に組み敷かれていた事を悦んでいた事さえ見透かされてしまいそうだ。
「凛音は変わらず可愛い凛音だよ。それに」
「それに?」
「上書きすればいいし」
「上書き? …っ!」
出しかけた手を引っ張られて優しく唇が重なる。
「こうやって」
悪戯が成功したような笑顔に顔が熱くなる。
こんな、誰が見ているかわからない場所で…。
「……これが夢なら覚めないで欲しいな」
真永が呟く。
珍しく可愛らしい事を言ってる。
「夢じゃないよ」
そっと真永の頬にキスを返した。
…もちろん、俺は真っ赤である。
翌日、伊吹は真永に俺のシャーペンを取り上げられて不満丸出しにしていた。
「凛音に考える時間をあげてたら絶対俺を選んでた」
その自信がどこからくるのかわからないけれど、伊吹はそう言う。
そして諦めるかと思いきや、変わらず俺に手を出しては真永を怒らせるのだった。
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